「芽衣子腹減ったなりー」
「もう少し我慢してほしいなりー」
とりあえず夕飯の材料でも買いに行くかと腰を上げて数十分、スーパーにやってきたわたしたち。
おい、かごに肉ばっか入れんな。
「…まーくんまだ野菜嫌いなの?」
「別に嫌いじゃなか、好きじゃないだけ」
「苦手ってことね」
「…肉が好きなんじゃ」
背も伸びてずいぶん格好良くなったと思ったのに、こういうところは変わってなくてかわいい。
いや、むしろこの格好良さだから余計にかわいく見えるのかも。塩キャラメルとか生ハムメロン的な感じで。
「……芽衣子?」
「ん、なに?」
「夕飯なんにするん?」
「あー。食べたいものは?」
「肉」
「わたしは食材じゃなくて料理名を聞いてるんだが」
はあ、とため息をひとつ吐く。
そりゃわたしだって料理が出来る方なわけじゃないが、少なくともまーくんよりは作れるだろう。
つまり食事はわたしの担当になりそうな気がするんだけど…何とも先行きが不安である。
「…今日は初日だし、まーくんが食べたいもの作るよ」
「ほんと?」
「うん。無茶言わなければ」
ひとつも野菜入れるな、とか。
付け加えるように言えば、一瞬だけ眉間に皺を寄せられる。当たり前のこと言ったはずなんだけど。
「じゃあ、」
「うん」
「しょうが焼き」
意外にまともなセレクト。
それなら豚肉か、と数歩下がって豚肉を手に取る。うん、安いしこれでいっか。
「じゃあしょうが焼きにしましょう」
「ん」
「手伝ってね」
「ん」
絶対手伝わないなこれは。
わたしがそんなことを考えているとわかっているのか、「心配しなさんな」と言いながらなぜか背中をつつくまーくん。痛いんだけど。
「芽衣子、芽衣子」
「ん?」
「これからよろしくな」
数時間前に見た意地の悪い笑顔じゃなくて、純粋な笑顔を向けるまーくん。
それは決して満面ではないけれど、懐かしくて、あたたかくて。
「こちらこそ、よろしく」
本当は面倒くさいんだろうな、とか、申し訳ないな、とか。
そんな気持ちを払拭してくれたことに感謝の念こそ覚えたけれど、かごにこっそり肉を入れるのはやめようね。