「足元気を付けてな」

「う、うん」


あれからどれくらいの時間が経っただろう。
出発したわたしは宍戸くんの言葉通り足元に注意しながら歩いてたんだけど、


「…ごめん」

「ん?どうした?」

「腕掴んでても、いいかな」


足元に気を付け過ぎてると前が見れなくて怖い。
そう思って勇気を出して言えば、宍戸くんが「激ダサだな」と笑った。


「わたし肝試しとか駄目なんだよ」

「まあ女だしな。得意な奴の方が少ねえだろ」

「そういうもんかな」

「そういうもんだ」

「…それなら、良かった」


ブン太も幸村くんもビビらせるだけビビらせて全部宍戸くんに丸投げなんだもんなあ。本当、宍戸くんは関われば関わるほどジャッカルくんにそっくりな人である。


「…あのさ。谷岡って、」

「何?」

「仁王と付き合ってんのか?」


突然そんなことを言った宍戸くんに、思わずわたしの足が止まった。
ご、ごめんいきなり止まって。


「いや、付き合ってないけど」

「でもすげえ仲良さそうだったな」

「…それなら柳くんの方じゃないの?さっきの感じだと」

「いや、呼び方的に」


ああ、そういうことか。
あの場じゃろくに話してもいないまーくんとどうして、と思ったけど、それなら納得。


「いとこなんだよ」

「…は?」

「わたしとまーくん、いとこ」


別に隠すこともないしな、と思って言えば、今度は宍戸くんの足が止まった。
わあ、びっくりしてる。面白い。


「そういう兼ね合いでマネージャーやることになったのか?」

「いや、実はわたしマネージャーじゃないんだ」

「は?違ぇの?」

「うん」


どこまで話そうか、と思ったけど、これも別に隠すことでもないしなあ。
うん、とりあえず簡潔に話すか。


「親の海外転勤をきっかけに、いとこのまーくんの家に住むことになって立海に転校してきたんだけど」

「おう」

「まーくんもブン太も同じクラスで一緒にいることが多かったから、テニス部の人たちとも仲良くなって今回頼まれた。サポートしてくれって」


何か立海のテニス部はマネージャーいないらしいよ。
そう付け加えたタイミングで再び宍戸くんが足を止めたので、


「どうしたの?」

「いや…これじゃね?祠って」

「ああ、そうかも」


確かルールは、カゴからボールを取る代わりに紙を置いてくるだとかって感じだったような。
…わたしたち最後だし、カゴ持ってった方がいいよね、多分。


「俺持つぞ」

「いいよ、大丈夫」

「折り返しとは言え片手で掴むの不安だろ。俺が持つから貸せよ」

「…うん、ありがと」

「気にすんな」


じゃあ戻るか。
そう言いながら笑った宍戸くんはやっぱり優しくて、さしずめ氷帝の良心だと心のどこかで思った。










「あ、谷岡さん」


あれから特に何事もなく戻ってきたわたしたちを迎えたのは、幸村くんと柳くんだった。


「どう、怖かった?」

「ううん、ずっと宍戸くんと話してたから大丈夫だった」

「ふふ。だから言ったでしょ、大丈夫だって」


でも怖くなかったなら良かったね。
そう言ってわたしの頭を撫でる幸村くんは、宍戸くんに短くお礼を言う。


「あ、宍戸くん」

「ん?」

「ありがと、腕。あとカゴも」

「おう」


ニッと笑ってどこかに向かった宍戸くんから視線を移し、きょろきょろとあたりを見回す。
……あれ、


「みんなは?」

「弦一郎とジャッカルは風呂がまだだったようでな。先に行かせた」

「赤也とブン太はお菓子パーティーの用意してるよ」


俺たちが出迎えるから、谷岡さんが戻ってくる前にやっちゃいなって言っといたんだ。
そう言って笑う幸村くんだけど、


「まーくんは、」

「柳生の様子を見に行くと言っていた」

「ふうん、…?」


まーくんなら意地でも待ってるって言うと思ってたから少し意外だったけど……そっか、柳生くんは親友だもんね。そりゃ心配になるわ。


「大丈夫かな、柳生くん」

「…きっと大丈夫だよ、柳生はね」

「…?」

「いや、何でもない。気にするな」

「?」


何か含みのある言い方だった気がするけど、柳くんがこう言うってことは勘違いなんだろうな。
そう思って歩き出したわたしは、これが勘違いじゃなかっただなんて、思いもしなかった。



  


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