いいこにしてろって言われても。
人見知り激しいわたしだし、どうしたっていいこにせざるを得ないじゃん。
「へえ、がっくんたち幼馴染なんだ」
「幼稚舎から一緒だぜー」
「幼稚舎だってブン太、やばいね。エリートの香りだね」
「なんで俺に言うんだよ」
意外や意外、そんなことなかった。
どうやら柳生くんのペアは宍戸くんだったらしく、なんだかすごくほっとした。これはジャッカルくんとペアになったと言っても過言じゃない。
ちなみにわたしの前に出発するブン太のペアはがっくん、さらにその前には幸村くん。幸村くんのペアは跡部くんらしいんだけど、タイム計ってるからいないんだって。
ということで、まーくんの言う通り…なのかはわからないけど、仲良く5人で話すことができています。少し、嬉しい。
「ふふ、ブン太は私立の中学行ってたように見えないってさ」
「俺だって中学から私立ですー受験して合格したんですー」
「うん、中学も立海って知った時は、」
驚いた。
そう言おうとしたわたしだけど、
「柳くんっ」
視界に入った彼に気付いて一目散に駆け出せば、薄く笑ってわたしの頭に手を乗せる柳くん。
わー、やっぱり早かった。おかえり柳くん。
「ただいま。いい子にしてたか」
「うん、ずっとお喋りしてたよ」
「そうか、頑張ったな」
うん、ブン太と幸村くんだけでも十分心強かったけど……やっぱり柳くんが来ると、こう、お父さんが来たみたいな気持ちになる。安心感がすごい。
「へえ、柳と谷岡って仲良いんだな。あいつうちの犬みてーだし」
「似たようなもんだよ。それか親子」
「芽衣子はうちの部全体のペットだぜ」
「ああ、そうだった」
ちょっと幸村くんとブン太、普通に聞こえてるよ。
ふん、わたしをペット扱いするなら、柳くんのわたしを手懐けるさまを見て学ぶがいい。こちとら褒めて伸びるタイプなんだ。
「そうだ柳くん」
「ん?」
「紹介してあげよう」
こっち。
そう言いながら柳くんの手を掴み、さっきまで座ってた場所に戻る。
「こちら。宍戸くんと、がっくん」
「…ん?」
「仲良くなりました」
「宍戸と向日のことは知ってるが……ああ、そういうことか」
ぽかんとしてる4人に対し、なるほど、とわかった様子の柳くん。流石です。
「うちの谷岡をよろしく頼む。………で、合ってるか?」
「及第点」
「なにが足りなかった?」
「敬語だったらもっと良かった」
「そうか、次は気を付けよう」
柳くんの昔からのテニス仲間ではなくわたしのお友達(と言っていいのかはわからないけど)として紹介した、ということをわかるとは流石柳くん。
「…なあ、柳ってあんな奴だったか?」
「蓮二は気に入った人間には甘いよ」
「ああ…なるほどな」
柳くんは最初から優しい人だったけど。
そう思いながら幸村くんと宍戸くんの会話に耳を傾ていると、「あ」と言いながらわたしを見たがっくんが、わたしの後ろを指さした。なんだろう突ぜ、
「自分ら随分盛り上がっとるやん」
「ぎゃ!」
振り返った瞬間立っていたその人に、その声に、つい声をあげてしまった。
…突然盾にしてごめん柳くん。でもそれ以上に、ごめん忍足くん。
「…相変わらず嫌われとるなあ、俺」
「やっぱ侑士にはびびるんだな、芽衣子」
「なんだよ忍足、嫌われてんのか」
「ち、違うからね忍足くん。てかびっくりさせないでよがっくんッ」
「がっくん?」
みんなが笑ってる中必死に弁解するにも関わらず、忍足くんは名前の呼び方に反応してしまったらしい。それでいいのかい忍足くん。
「なんや、いつの間にそない仲良くなったん?」
「岳人くんだとなげーじゃん?」
「じゃん」
「いやじゃんやなくて。なんで芽衣子ちゃんも乗るんや」
う、ん。やっぱこうやって少し経てば、忍足くんとも普通に話せるんだよな。
次からは突然声かけないように頼…ってあれ、そういえば忍足くんのペアって、
「…………」
「あ、おかえり仁王」
「……ん」
そうだよ、まーくんじゃん。
幸村くんの声に振り返って彼の姿を探せば、なぜか幸村くんのすぐ隣にいた。なんでそんな中途半端なところで立ち止まってたの。
「まーくんおかえり」
「…ん」
「…どうしたの、怖かった?」
「ううん」
怖くないぜよ。
そう言ってわたしたちを一瞥したまーくんは、
「俺、赤也からかいに行ってくるなり」
戻って早々、そう言って去っていった。
ていうか、からかいにいくって後輩からしたらすごい嫌な訪問の理由だよね。切原くんかわいそうに。
「……なあ芽衣子、なんか仁王おかしくね?」
「まーくんが切原くんをからかうのはいつものことじゃん」
「いや、そうじゃなくて、「ブン太、イップス」
「!?」
イップスってなんだろう。
突然よくわからないことを言った幸村くんと怯えるブン太、そしてため息を吐く柳くんを見ながら首を傾げれば、どこかから切原くんの叫び声が聞こえてきた。