来ました。
いや、来てしまいました。
立海、氷帝2校のテニス部レギュラー全員がそろっての、挨拶やら説明のお時間です。
「今後の予定を記した紙はそれぞれの部長、副部長に渡してあるから、あとで各自確認しろよ」
…ってな感じで、さっきのアーン?の人が色々説明してるんだけど…たぶん今回の合宿の主催は立海なのに、なんで幸村くんじゃなくてあの人が仕切るんだろう。目立ちたがり屋なのかな。
っていうか、
「…まーくんなにしてんの?」
「芽衣子の髪やっちゃる」
「…変な風にはしないでね」
「ん」
「芽衣子芽衣子、見ろよこれ」
「あ、前髪あげたんだ。かわいー」
「だろぃ?あとで芽衣子にもやってやるよ」
「わたしおでこ広いから似合わないよ。っていうかあんたたち静かに、「おい、うるせーぞ立海」
うわ、なんか怒られた。話しかけられたから答えただけだったのに。注意してるとこだったのに。
…でもまあ今のは確実にわたしたちが悪かったから仕方ない…とはいえ、わたしの印象最悪だろうなあ。
「…今日は長時間のバス移動で疲れてる奴も多いだろう。自主練するもよし、部屋で寝るもよし、各自自由に過ごせ。ただし明日からは本格的な練習に入る。それに備えた行動をとることを心がけろ」
おお、練習は明日からか。
みんなはテニスやりにきてるんだし残念かもしれないけど、まあやりたい人は自主練できるわけだし、わたしとしてはちょっと嬉しい。
神奈川来てから海以外の自然ってそんなに目にしてないし。
「なーなー、あとで湖行こーぜ」
「湖あるの?」
「ボートもあるんすよ!」
「へえ、じゃああとで行こうか」
「最後に、今回俺たちをサポートしてくれる立海の奴を紹介する」
「でも湖の近くって寒くね?ジャージ着てからにしよーぜ」
「寒いの嫌だな…」
「谷岡、呼ばれているぞ」
「え?」
柳くんの声に顔を上げると、眉間に皺を寄せたアーン?の人にガン見されてた。
それにつられたように氷帝の人もみんなこっち見てるし。
「なに?」
「ふふ、お待ちかねの挨拶だよ」
「…前行かなきゃだめかな」
「ああ。行ってきなさい」
「先輩がんばってー!」
「頑張れよー」
「緊張することないぞ、気楽にな」
「谷岡さんはやればできる方です!」
「そうじゃそうじゃー」
「谷岡、お前の本気を見せてこい!」
なにこれ授業参観?
まともなのって最初の方に言った切原くんとブン太とジャッカルくんくらいで、後半ちょっとおかしいでしょ。
そんなことを思いながら前に出れば、アーン?さんが軽く睨みながらマイクを渡してきた。確かにしゃべってたわたしが悪いけど、どうしよう本当に怖いよこの人。みんな助けてよ。
「…は、」
そんな藁にも縋る思いでみんなの方を見て、後悔した。
みんな笑ってるし、ブン太とまーくんと幸村くんなんてムービーとか写メ撮ってる。意味わかんない。
…もういい。さっさと終わらせて後で柳くんか柳生くんに怒ってもらおう。
「…えーと。立海の谷岡芽衣子です。よろしくお願いします」
「それじゃあこの後は自由行動だ。解散」
「……え、ちょ、ほかの子は?」
「アーン?うちの奴は来てねえぞ」
「…は?」
え、ちょっとどういうこと。
だってバス降りてすぐに話した時、まーくんもブン太も幸村くんも、……
「……ちょっ、あんたたち嘘吐いたでしょッ!」
「くくっ…信じとったんか…っ」
「やっべ俺腹痛い…!」
「ふふ、やっぱり谷岡さん連れてきて良かったね」
「柳くんはさりげなく笑うな!」
最悪だ、もう本当恥ずかしい。
その上わたし1人でここにいる全員の面倒見るとか過労死させる気ですか。
「っ…とりあえず、よろしくお願いしますッ」
押し付けるようにしてマイクを渡し、速足でみんなのもとへと戻る。
なんか拍手とか聞こえたような気がするけどそんなのどうでもいい、とばかりにまーくんとブン太と幸村くんの頭を叩いても、わたしの心の傷が癒えることはなかった。