「おー参謀、今日は遅かったのう」
「仁王か。珍しいな、集合時間の前にきちんと来ているとは」
午後練が始まる5分前になってやって来た柳は、携帯をいじる俺にそう返す。
「ちょっと色々あってな」なんて濁しとるけど、俺はバーッチリ見とったぜよ。
「色々ねえ?」
「…変な詮索はやめろ。ただ道案内をしていただけだ」
ロッカーに手をかけた柳が、にやにや笑う俺を呆れたような顔で見た。
「知っとるよ。さっきコートから見とったけど、お前さん女とおったじゃろ」
「ああ」
ロッカーからラケットを取り出しながら言った柳は、「転入試験を受けたそうだ」と付け加えた。
なるほどな、道理でウチの制服着とらんわけじゃ。
「名前とか聞いたんか?」
「…ああ、そういえば聞かなかったな。だが俺たちと同じで、春から3年のようだ」
「…ほー…」
同じ学年で転入試験を受ける奴。
1人だけ心当たりはあるが、何せもう5年近く会っとらんし、人違いの可能性も大いにある。
立海受ける奴なんて少なくもないじゃろうしな。
「気になるのか?」
「いんや、別に」
言いながら立ち上がり、ドアノブに手をかける。
面影がある、なんてさっきは思ったが、それだって何日か前の夜に見た昔の写真から感じたことじゃ。
顔なんかまともに覚えとらんし、そうじゃなくても特に女なんてのは数年見ないだけで驚くほど変わるし、コートからはそれなりに距離もあったし…っちゅーわけで、あいつが芽衣子って確信はない。
けど、
「芽衣子なんかのう」
「何だ?」
「何でもなか。ほれ、早く準備しんしゃい」
もしあれが芽衣子だとしたら、全然昔と変わっとらん、なんて。