「えーと…鶏肉アスパラトマト…」
「なにしとるんじゃ?」
学校から帰宅した午後7時過ぎ。
合宿のための荷物を取りにいったん帰宅した2人が来るのを待つ間、冷蔵庫の中を覗きながら考えるわたしの頭にまーくんの腕が乗っかった。
「賞味期限切れそうなやつ探してるの」
「何じゃ、やっぱり芽衣子が夕飯作るんか?」
「ううん、5日間のうちに期限切れる食材でブン太に作ってもらうの」
まあ手伝いくらいはするけど。
そう付け足して言えば、「芽衣子はいいお嫁さんになるのう」とまーくんに頭を撫でられた。
……喜ぶところだろうに何でちょっと寂しくなったんだろう、それだけこの生活が楽しいってことなのかな。いやまさか、毎日くたくただしそんなことがあるわけない。
「…芽衣子?」
「…?」
「どうしたんじゃ、考え込んで」
「いや、なんでもない」
とりあえず鶏肉はステーキとかにして、アスパラはキノコ使ってバターソテにして、トマトは…サラダっていうかもはや切ってそれ単体で出して、あとはコンソメスープでも作ればいっか。賞味期限ずいぶん先だけど玉ねぎも人参もキャベツもベーコンもあるし。
「こうやって見ると、結構何でも作れる感じに揃ってるね」
「無意識に選んで買っとったんか?」
「うん、割と。万能な野菜とその時食べたいもの買っておけばいっかって思ってた」
「女子力高いのう」
「無計画じゃなければ高いかもしれないけど、特になんも考えてないからな…」
どうなんだか。
そう苦笑したタイミングで聞こえてきたインターフォンに顔を見合わせ、冷蔵庫の扉をバタンと閉める。
「来たのう」
「来たね」
「俺出るけ、芽衣子は飲みもんとか用意しときんしゃい」
「うん」
そう言ってまーくんは玄関に向かい、わたしは再び冷蔵庫を開ける。
そうだな……お茶でい、
「お邪魔しまーす!」
「お邪魔すんぞー」
……いいか、と思った瞬間遠くから聞こえてきた声に、ひっそりとため息を吐く。
けど、そこまで悪い気がしないのはどうしてだろう。
「来たぞ芽衣子ー!」
「聞こえてるよ。いらっしゃい」
わ、案外荷物少ない。男の子だからかな。
そんなことを思いながらグラスに注いだお茶をテーブルに置けば、切原くんが思い出したように「あ」と声を上げる。
「これ手土産っす!」
「? なにこれ?」
手渡されたビニールの中を覗けば、そこにはたくさんのお菓子。
…甘いものばっかりだし、ブン太セレクトかな。
「ありがと。あとで食べよっか」
「へへっ」
…わあ、すごい嬉しそう。
頭撫でただけでこんな笑顔見せてくれるなんて天使なのかな切原くんって。
「…先輩?」
「 え、あ、なに?」
「どうしたんすか?」
不思議そうな顔でわたしを見上げる切原くんに気付き、頭の上に乗せていた手をパッと下ろす。
ごめんねいつまでも撫でちゃって。
「…えっと。2人もお風呂まだだよね」
「おう、急いで来たからなー」
「俺もまだっす!」
「じゃあどっちか先に入ってきんしゃい。俺らもう風呂入ったけ」
2人の荷物を部屋の隅に寄せたながらまーくんが言えば、早速じゃんけんを始めるブン太と切原くん。
…先に入るのはブン太か。
「それじゃ自由に使って、タオルとかは用意してあるから」
「さんきゅー」
……まあ一応はお客さんだし、ブン太がお風呂行ったらご飯作り始めるか。
きっとわたし以上に疲れてるんだろうから、とひとり心の中で思えば、なぜかまーくんがわたしの頭を撫でた。