「…んん、」
周囲の騒がしさに目が覚めた。
…ああ、そういえばテニス部の人たちが来てたんだっけ。そんなことを思い出して目を開けば、眼前に迫ったいくつもの顔。
「…うわっ」
「谷岡さん起きましたか、おはようございます」
「あーあ、お前らが騒ぐけ起きたじゃろうが」
「だってせっかく来たのに寝てるんだもん、つまんないじゃん」
「俺目当てで来たんじゃないんか」
「谷岡さんがいるってわかったら仁王は霞むよね」
「ああ」
「うわ、最低じゃ」
いや、最低って言いたいのわたしだよ。
まーくんはまだいいとして、男の子に寝顔見られるとかほんとないわ。
まあ柳生くんはたまたま近くにいただけで見てたってわけじゃなさそうだから、別にいいけど。
「…ゲームは?」
「今は赤也とブンとジャッカルがやっとるとこ」
「あー…」
なんのゲームをやっているのかすら知らないけど、メンバーを聞いただけでもジャッカルくんが不憫な思いをするのは明白だ。かわいそうに。
「真田くんは?」
「ふふ、俺と勝負して負けたから飲み物買いに行ったよ」
…要するにパシリか。
負けはいけないとか制裁とか、みんなが言ってることはよくわからないけど…うん、後で出そうと思ってたお菓子は真田くんとジャッカルくんにあげよう。なんて、決意した時。
「ねえ、2人の昔の写真とかないの?」
「………ないよ」
「芽衣子の部屋にあるぜよ」
「なんで言っちゃうの!」
最悪、もうやだ。
そんな思いを込めて心底嫌そうな顔で睨んでみるも、当の本人は悪びれる様子もなさそう。
「…少しだけだからね」
「やった」
楽しそうに笑う幸村くんが非常にむかついたけど、バレてしまったものは仕方ない。
はあ、とため息を吐いて腰を上げれば、「手伝う」とまーくんが着いてきた。
「うっわ、これ芽衣子?」
「ううん、こっちがわたし」
指をさして教えれば、おお…とよくわからない感嘆の声が上がる。
大泣きしてる写真とかあるから恥ずかしくて見せたくなかったけど、案外見始めると面白い。
「先輩かわいいっすね〜」
「まあ俺じゃし」
「あんたじゃないっすよ、芽衣子先輩!」
「あはは、ありがと」
いや、普通にまーくんもかわいいと思うけどね。
そんなことを思いながらペラペラとページをめくり、思い出にふける。
「わたしの写真まーくんと一緒のやつばっかだ」
「ぶはッ、お前まーくんって呼ばれてんのかよ!」
「昔からなり。かわええじゃろ」
ブン太と切原くんがなぜか爆笑する。
わたしにとってこの呼び名が普通なんだけど、彼らからしたら似合っていない呼び方なのだろうか。
「学校では苗字で呼んでいましたよね?あれは我々に知られないためだったのですか?」
「半分はな。あと半分は芽衣子が色々言われんように」
まあ結局無駄じゃったけど、というまーくんの言葉に、彼とブン太以外の視線が集まる。
ただ1人柳くんだけが眉間に皺を寄せていて、先日彼に聞いた言葉が、よっぽどひどい意味なのだとわかってしまった。
「なに、谷岡さんなんか言われたの?」
「調子乗ってるとか。まあ大したことじゃないよ」
「大したことあるっすよ!」
「いや、ブスとかデブって言われてないし別に平気」
手を軽く振って切原くんの言葉を否定する。
傷つくのって言ったらやっぱ露骨な悪口だよな、うん。
「そういやあん時の仁王いつもと違ったよな」
「どういうことだ丸井、詳しく聞かせてくれ」
「ん?いや、まあいとこってわかって納得はでき、「ブン、ちょっと黙りんしゃい」
ブン太の言葉を遮って言ったまーくんは、恥ずかしさと不機嫌さが混じったような複雑な表情。
なるほど、中学から一緒のブン太から見ても、普段のまーくんとは違ったんだ。
「とにかくわたしはこれっぽっちも気にしてないから。ブン太はそれ以上言わないであげて。柳くんもよくわからないけど突っ込まないであげて」
「…仁王にはやけに甘いんだな」
「まーくんがこういう状況に苦手なのは昔からだから」
言いながらまーくんを見れば、やっぱり少し恥ずかしそうに目を逸らされる。
そんな時間の終わりを告げるように、遠くの役所から12時を告げるチャイムが聞こえてきた。