「……………え、芽衣子?」
誰か助けてください。
私は今きっと、人生で一番のピンチに遭遇しています。
「……………」
それは日曜の午前10時過ぎ。
連打されるチャイムの音に目を覚ました私は、苛立ちながらも訪問者の対応をしようとしたんだけど…どうやらその判断がいけなかったらしい。
開いたドアを勢いよく閉じて、目を丸くした訪問者たちに強制的に別れを告げる。
やばいやばいやばいやばいやばい。どうしよう、ほんっとにどうしよう!
「ッまーくん!」
「んー…何じゃ芽衣子…」
「みんなっ、みんな来てるっ」
「…は?」
ノックもせずにまーくんの部屋に駆け、黒いシーツから顔を覗かせた彼のベッドに上がる。
ちょっ何でまた上半身裸なの…って今はそんなことより!
「ドア開けたら何かみんないたッ」
「見られた?」
「……ブン太に思いっきり名前呼ばれたし、みんなびっくりした顔してた」
「あー…」
そう。訪問者というのは、私の名前を呼んだブン太をはじめとするテニス部ご一行。
焦りと動揺を隠せない私に反し、落ち着いた様子のまーくんは体を起こしてがしがしと頭を掻いた。
「ほら、行くぜよ」
「…え」
「バレたもんはしょうがなか。潔く白状するなり」
いや、付き合っとるって嘘吐いてもええか。
そんなことを言ったまーくんに、この期に及んでまだ嘘を吐く気かと言おうとして、彼が上半身裸なことを思い出した。
ちょッ今その嘘吐いたら洒落になんないからっ!
「…と、とりあえず私が行くっ」
「大丈夫なん?」
「まーくんは服着てから来て!」
そう言ってまーくんの部屋を出て、玄関に向かったは、いいんだけど。
「谷岡さーん」
…わあ、何かドアの向こうから声するし。
この声と呼び方的にきっと幸村くんだろうけど、どうしよう、今出たら確実に尋問されるしいっそこのまま「早く開けないとこのドアぶち破るよ?」
「今開けます」
ギィ、と開いたドアがいつもより重い気がするのは、きっと気のせいなんかじゃない。
ああもう最悪。みんなの顔見れないよ。
「おはよう」
「…おはよう、ございます」
「ふふ、なんで敬語なの?」
「…いや、意味はないのでお気に、」
「ったくなんなん朝から…俺寝とったんじゃけど」
「わっ」
突然背後から聞こえてきた声に振り返れば、当然ながらまーくんがいた。
これ以上ここで騒ぎ立てたくないのに…っていうかッ。
「服着てって言ったでしょッ」
「暑いんじゃもん」
「さっきまでシーツすっぽり被ってたくせになに言ってんの、いいから服着てきなさい」
「…芽衣子はうるさいのう」
文句を言いながら部屋に戻っていくまーくんを見送り、何とも言えない空気をかもし出すテニス部ご一行の方に顔を向ける。
…ああ、終わった。何かよくわかんないけど終わった。
「…付き合ってるの?」
「付き合っとるよー」
「付き合ってないし早く着替えろ!」
リビングから顔を覗かせたまーくんが茶々を入れたせいで、さっきよりだいぶ面倒なことになったような気がする。
…はあ、憂鬱。
「…とりあえず説明するので、上がってください」
引っ掻き回すだけ引っ掻き回して部屋に戻っていった奴のことを恨めしく思いながら、踵を返してリビングに向かう。
背後から聞こえてくるコソコソとした話し声に、今日は厄日だとため息を吐いた。