「谷岡?」
転校してきて2週間近くが経ちました。
帰りのHRの最中ブン太からとーってもありがたい情報を教えてもらい、とりあえず今日の夕飯は野菜づくしにしてやろうと画策していた午後4時のこと。
「あ、ジャッカルくん」
「何してるんだ?」
「これから帰るとこだよ」
図書館で一通りの苦い野菜を調べ終え帰ろうとしていた私は、ブン太のお友達、ジャッカルくんに遭遇しました。
テニスコートの近くの茂みにしゃがんでいた彼は立ち上がり、白い歯を見せて笑う。うん、やっぱさわやか。
「調べたいことあって図書館行ってたの」
「へえ、だからこんな時間までいたのか」
お前いつもすぐ帰ってるんだろ?と言ってまた笑った彼に、三歩ほど歩み寄る。
なぜか驚いたような顔をしたけど、まあよくわからないからいいや。
「何してんの?」
「俺はボール拾い」
「……何で?」
ジャッカルくんがユニフォームを着てることからも明らかなように、部活に入ってる人はただいま部活に励んでるはずの時間。
なのに何でこんなとこに。
「用があって保健室行ったんだけどな、ついでにボール拾って来いって幸村に言われてさ」
「……苦労してるんだね」
「もう慣れたよ」
何か今日の幸村機嫌悪くてな。
ハハ、と笑いながら言う彼が、何だか少し可哀相に見えた。
「…手伝うよ」
「え?」
「ひとりじゃ大変でしょ」
バッグを地面にどすんと置いて、先ほどのジャッカルくんのようにしゃがみこむ。
しゃがんでるせいで立ってる彼の顔は見えないけど、さっきの反応からして、多分びっくりしてるんだろうな。
「いいって、お前早く帰りたいんだろ?」
「ジャッカルくんだから手伝うんだよ」
まったく、みんなどんだけボール飛ばしてるんだよ。
そんなことを思いながら、茂みのあちこちに転がっているボールを拾う。
「早く部活戻りたいでしょ?」
「そりゃそうだけどよ…」
「私は特に用もないし気にしないで」
言いながら、1つ、また1つとボールを手に取る。
…ジャッカルくんはもう両手じゃ抱えきれないくらい持ってるし、一緒に行ってあげる必要あるかもしれないな。
「…ありがとな、谷岡」
「どういたしまして」
彼を見もしないでそう言った私に、彼はもう一度、ありがとうと言った。