「ブン太、食堂でお弁当食べんの?」

「おう」

「私別に1人でもご飯くらい食べられるよ」

「水くさいこと言ってんじゃねえよ、一緒に食おうぜー」

「…………」


それぞれ更衣室から戻った昼休み、俺ら3人が向かうのは食堂。

別に、3人で昼飯を食う決まりなんてない。
けど基本的に教室で飯を食う俺ら、その横に人ごみを嫌って教室で食う芽衣子がおったら会話が生まれんのは当然じゃ。

そんでいつの間にかそれが当たり前になっとった俺らは、食堂で飯を食うって言った芽衣子と一緒に、財布を持って教室を出たんじゃけど。



「ほら、あの子だよ」
「あー、3Bの転校生でしょ?」
「ちょっと顔いいからってねー…」



それを快く思わない奴等も、少なからずおるらしい。



「さっき聞いたけど、4限の時も――」
「え、まじで?うっわー」
「この前一緒に帰ってるの女テニが見たって」
「私も聞いたんだけど――」
「ほんと、調子乗ってるよね」



…なんなん、あいつら。
明らかに芽衣子に向けられとる陰口があちこちから聞こえてきて、無意識のうちに眉間に皺が寄る。

自然と、3年前のことを思い出した。


「…ほんっとに、女は陰口が好きじゃのう」

「私本人に言えない愚痴は心に留めとくよ」

「いや、お前のこと言ってるわけじゃねーから」

「でも今女って言った」

「じゃあ芽衣子以外の女」

「はあ」


なるほど。…とか言ってるけど、これは理解しとらんな、絶対。
自分のことを言われとるのに何でこんな無関心なんじゃ。そんなん今更ってのはわかっとるけど。


「まあ気にすんなよ、あんなのただの僻みだから」

「私僻まれてるの?何で?」

「俺らがイケメンじゃからー」

「…………ああ」

「…何だよその間」


苦笑するわけでもなく、あくまで真顔な芽衣子が声を上げた。
まあこんな風になるのも時間の問題だとは思っとったけど、苗字で呼ばせることにしてよかった。

そう思いながらさっさと食堂へ行こうとした時、



「ただのビッチじゃん」



後ろから聞こえてきた声に、思わず足が止まった。

……あー、だめじゃ。今日の俺何かおかしい。
自分でも思っとるのに、いきなり足を止めた俺を呼ぶ芽衣子の声がするのに、動き出した足は止まらない。


「…お前ら、ええ加減にしんしゃい」

「え…あの、仁王く、」

「ちょっ…おい仁王」

「すまんがブンは黙っといてくれんか」


つかつかと女の方に歩いていった俺の腕を、ブンが掴んで制止する。
けどこれは流石に、俺も我慢できん。


「芽衣子をお前らと一緒にすんな。あいつがそんな女じゃないことは俺が1番よく知っとるし、そう言うことで俺らのことまで馬鹿にしてるって気付いてないんか」

「ちが…私たちはただッ」

「何じゃ、あいつのことをビッチって言っても許される正当な理由でもあるんか?あいつがお前らに何かした?それならあいつにも謝らせるけど、違うんじゃろ」

「それ、は……」

「…次くだらないこと言ったら、許さんぜよ」


…何で明らかに自分が悪いのに、被害者面しとるんじゃ。
目の前にいる、名前も知らん女の悲しげな表情を見る程にイライラが増していく。


「…おい、仁王大丈夫か?」

「…別に。俺は何ともなか」


身内を悪く言われるのがこんなに気分が悪いもんだとは知らんかったな、なんて思っとると聞こえた声に、すぐ横にブンがおったことを思い出した。
そのまま振り返れば、少し驚いたように目を丸くした芽衣子が俺らを見とる。


「…ほら芽衣子、行くぜよ」

「 あ…うん、」


多分俺のこんなとこ見たことないけ、芽衣子もびっくりしたんじゃろうな。
…あーあ。あんなとこ芽衣子に見せとうなかったんじゃけど。


「ねえ、」

「ん」

「…ねえっ」


自分の方に思考がいってないと思ったのか、ムッとした表情の芽衣子が俺の制服を掴む。
ちゃんと聞いとるよ。


「何じゃ?」

「ビッチって何?」

「………」


ムッとした顔から一転、不思議そうな表情をした芽衣子の問いに、俺とブンが固まる。
…これ、は。


「…芽衣子は知らなくてええ」

「そ、そうそう。うん、お前は知らなくてもいい」

「え、ブン太まで知ってるの?」

「知ってるけど、」

「なら教えてよ」

「…芽衣子、世の中には知らなくてええこともあるんじゃ」


だから知ろうとしちゃいかん。
冷や汗のような何かが流れるのを感じながら、俺とブンは芽衣子の腕を引っ張り食堂へ向かった。




変化その4:俺は自分が思ってたより、芽衣子が大切らしい

無変化その3:純粋



  


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