4限目、体育。
体育館の隅っこに座るブンと芽衣子、そして俺。

今日の種目であるバスケが嫌いらしく、体調不良(嘘)を理由に見学を申し出た芽衣子は、携帯をしまってどこかをぼうっと眺める。


「芽衣子、飴食う?」

「うん」


ちなみに俺らはさっき試合終わったばっかなり。
ついでに言うと、芽衣子は俺らの試合になんて見向きもせずに携帯いじっとった。
まあ興味ないことにはとことん無関心な芽衣子やし、当然っちゃ当然じゃ。


「イチゴ味ないの」

「あるけど、お前イチゴ好きなの?」

「うん、おいしいしかわいい」

「…かわいいって意味わかんねー」


横からの声に耳を傾ければ、どういう経緯かはしらんけど、いつの間にか仲直りしてるブンと芽衣子。
くそ、授業中に寝たことをこんなに後悔したことはないぜよ。


「はい」

「ん?」

「ブン太が2つくれたから」


おすそわけ。
声に気付いて横を見れば、芽衣子が飴を渡してきた。
俺のはレモンか。どうやらいらない方を渡されたらしい。


「にしても、何でバスケ嫌なん」

「突き指しそうで怖い」

「あー確かにな」

「なったことある?」

「あるある。すげー痛い」

「わあ…やっぱ嫌だ。バスケこわい」


コロコロと飴を転がしながら、地面に重く響くボールの音をと2人の話を聞く。
2人は何か盛り上がっとるし、することなくて暇じゃな…と正面に視線を向けた、その時だった。


「あぶな、ッ」


俺らの方に向かってくる茶色いボールに気がついたと同時に、誰かのそんな高い声が聞こえた。

まずい、このままじゃ芽衣子に当たる。
そう思った時には体は動いとって、


「っ、」


芽衣子を庇うように壁に手をつき、直後背中に衝撃が訪れた。
ゴンゴン、ジンジンと、重い衝撃に背中が痛む。


「え、」

「ッ、たいのう…」


痛みに顔をしかめながら目を開ければ、壁についた腕の間から目を丸くした芽衣子が俺を見上げる。
何が起きたのかわからない、とでも言いたげな表情に思わず笑ってしまいそうになった。


「まーく、」

「ッご、ごめん仁王!」

「…ん。平気」


芽衣子が昔からの呼び方で俺を呼びかけた時、遮るように試合中の女子が走ってきた。
姿を見れば隣の席の三宅ちゃん。どうやらこいつがミスったらしい。
平気なんて言ったが、ただでさえ重くて大きいバスケのボールがあんな勢いでぶつかってきたわけじゃし、それなりに痛い。

とはいえ申し訳なさそうにしとる三宅ちゃんにそんなこと言えるわけもなく、立ち上がりすぐ後ろに転がっていたボールを手渡した。


「危ないけ、気をつけんしゃい」

「うん、本当ごめん。大丈夫?」

「別に痛くもないし大丈夫じゃ、気にせんでええよ」


眉尻を下げながら謝ってきた三宅ちゃんにそう言って、とりあえず振り返ってついさっきまで座っていた場所に腰を下ろす。
…あー、痛い。普通に痛い。


「えっ、あ、ねえっ」

「ん?」

「あの、ごめん」

「何で芽衣子が謝るん」


俺が勝手にやったことじゃし、なんてわざわざ言ったりはせんけど、実際芽衣子はなんもしとらん。
ならボールを投げた奴が悪いのか、受け止めることが出来んかった奴が悪いのかと言われれば、そういうわけでもないじゃろ。あいつらだってわざとやったわけじゃなか。


「運が悪かっただけじゃ」

「…でも、ごめん。ありがと」

「ん」


芽衣子が怪我してないならええよ。
昔のことを思い出して頭を撫でれば、芽衣子が立てた膝に顔を埋めて「うん」と呟いた。




変化その3:思っていたより小さかった



  


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