「「じゃーんけんぽいっ」」
「「あーいこでしょっ」」
「あ。勝った」
「くっそー!」
2限目、数学。
後ろから聞こえてくる場違いな声に振り向けば、やったーと低めにピース(チョキ?)をする芽衣子と、パーのまま机にうなだれるブン。
ちなみに1限の実況がないのは、購買から戻ってきたブンが案の定芽衣子を叩き起こされて軽くキレて、びびったブンに邪魔されることもなくそのまま寝続けてたから。
…いや、それはええとして、
「…なにしとんの」
「喉渇いたって言ったら、お前がじゃんけんで勝ったら奢ってやるってブン太が言ってきた」
ラッキー、と笑う芽衣子と対照的に、悔しそうなブンは顔をゆがませる。
ジュース1個くらいで、と思ったけど、単純に負けたことが悔しいらしい。流石負けず嫌いじゃ。
「そこ、さっきからうるさいぞ」
「あ、やばっ」
「…ブン太が騒ぐから」
あまりの授業態度にしびれを切らしたらしいセンセーが注意する。
急いで黙った2人じゃけど、時すでに遅し。ロックオンされたらしい。
「楽しそうに話してるってことはもう解けてるんだろうな?丸井、答え言ってみろ」
「俺!?」
「ブン太、答え−2だよ」
「まじで?はいはいっ、−2!」
小声で答えを教えた芽衣子の言葉を信じ、高らかに答える。
……俺の計算だと、そこ−2じゃないんじゃけど。
「残念、そこは6だ」
「え」
「…ごめん、私次の問題解いてた」
「まじかよ…」
上げていた手をゆっくりとおろし、またしてもうなだれる。
まじごめん、と謝った芽衣子のほっぺをぎゅうっとつまんだブンには、芽衣子の嫌がる声なんて聞こえとらんらしい。
「よし、じゃあ次。谷岡わかるか?」
「−2ですか?」
「おお、難しい問題なのによくわかったな!」
「ありがとうございます」
教室のあちこちから聞こえる感嘆の声。
さらに腹を立てたらしいブンは、芽衣子の両頬を思いっきり引っ張る。
「いひゃい」
「俺を怒らせた罰だ」
「はなひて」
「やだ」
フン、と顔を背けたブンに、いよいよカチンときたらしい。
眉間に皺を寄せた芽衣子はセンセーにバレんようにゆっくり手を上げて、ブンの眉間にデコピンをひとつ。
「いっ…てぇ!」
「ふん、仕返しだよ」
「お前なあ!」
「お前らいい加減にしろ!」
廊下に立ってろ!センセーの怒号が教室中に響く。
わずかに聞こえる笑い声にいたたまれなくなったのか、2人とも不満そうな顔をして教室を出て行った。
「おい仁王、何ぼさっとしてんだ。お前もだぞ」
「…は?」
周囲からの視線が突き刺さるようで、俺まで気まずくなってしまう。
……俺、なんもしとらんのに。
「………」
ドアを開ければ、さっきのやりとりはどこへやら。
あぐらをかいた2人は、ずいずいずっころばしなんてやけに懐かしい手遊びをしとった。
………こいつら。
「いって!」
「ぎゃっ」
何かむかつく。
そんな思いで、ぱしっ、と頭を強めに叩けば、2人はまた不満げな顔をした。
「何だよ仁王!」
「痛いんだけど」
「お前さんらが悪い」
何で俺まで巻き込まれなきゃならないんじゃ。
そんなことを思いながら、仕返しに2人に圧し掛かってやった。
変化その1:学力の向上
無変化その1:やられたらやり返す