谷岡芽衣子。
約2週間前に俺らのクラスにきた転校生。兼、俺のいとこ。兼、俺の同居人。
「…なに?」
「なんでもなか」
「…食べづらい」
「気にせんでええよ」
寝坊した。
そう言って席につくなりパンをむさぼりだした芽衣子は、少し不満そうな顔をして俺を見る。
普段なら朝練がある俺と同じ時間に起きて1人朝食を摂る芽衣子じゃけど、今日は寝坊したせいで朝飯を食えなかったらしい。
「ねえ」
「ん?」
「なんで見るの」
「なんとなく」
「意味もなく人を見ないで欲しい」
俺の視線から逃げるようになにもないところを見ながら、もぐもぐと口を動かす。
それでもやっぱり気になるらしく、時折俺の方を見ては嫌そうに眉をしかめる。相変わらずからかい甲斐のある奴じゃ。
「…やめた」
「食わんの?」
「そんなに見られたら喉通らないよ」
当初は学校での俺への接し方について模索してた芽衣子も、日が経つにつれどうでもよくなってきたらしい(流石面倒くさがり)。
はあ、とため息を吐きながらパンの袋をくしゃっとたたむ。
「で、なに?」
「用なんかなかよ」
「……」
「かわいいかわいい芽衣子ちゃんのこと観察してるだけじゃ」
「なんで観察すんのー」
「5年近く会ってなかったじゃろ。その間に芽衣子がどんな風になったかを知るためにな」
俺が声を潜めてそう言うと、芽衣子はあからさまに嫌そうな顔をする。
おーおー、かわいいって言われて顔を赤らめるどころか嫌そうにするだなんて、流石はいとこ。
いや、もしかしたら引っかかったのは観察の方かもしれんけど。
「あ、寝ちゃだめじゃ。起きて」
「やだ」
「俺がやだ」
「知らない」
そう言って、芽衣子は腕を枕に突っ伏してしまう。
ふん、まあええ。購買行っとるブンが戻ってきたら絶対叩き起こされるけ、つかの間の休憩くらい許しちゃる。
「覚悟しんしゃい、芽衣子」
そう。
これは俺、仁王雅治による、谷岡芽衣子の観察記。