わたしだって、楽しいことは大好きだ。
だからこうやってわいわいご飯を食べたりするのも、仲良しなのも、すごく良いことだと思う。
けど、
「っおいブン太!」
「なんだよジャッカル文句あんのか!」
「ブンはいい加減人の食いモン取るのやめんしゃい」
「俺としてはお前の食ってもいいんだけど?」
「だから太るんじゃデブン太」
「なんだとてめえ!」
「ブン太、味覚奪ってあげようか?」
「…………」
……なんだろう、この崩壊具合は。
そして味覚奪うって何。そんな脅し初めて聞いたんだけど。
「……ブン太、わたしので良ければ食べていいよ」
「えっまじかよ!お前まだ4つしか食ってねーじゃん」
「うん、なんかお腹いっぱいになった」
「ちゅーかいつの間に4つも食ったんじゃ」
「あっという間だよこれくらい」
本当だったらあと2つくらいいけるけど、流石にジャッカルくん(バッファローくんじゃなかった)がかわいそうだもんね。
ブン太だってわたしの代わりにこれ買ってきてくれたんだし、今日は特別に譲ってあげよう。
「悪いな谷岡、ありがとう」
「いえいえ」
申し訳なさそうに苦笑したジャッカルくん。
…うん、来週からは食堂か教室でひっそりと食事を摂ろう。
「そういえば谷岡さん、元々どこに住んでたの?」
「………内緒」
「え、なんで?」
「なんでも。内緒です」
「あっ、じゃあじゃあ、なんで転校してきたんすか?」
「あ、そういえば俺も聞いてねーや」
「あー…えっと、」
隣に座るまーくんから感じる“言うなよ”というオーラ。
大丈夫大丈夫、わかってるって。
「お父さんが海外に転勤することになって、お母さんも着いて行くことになったんだ。けど女の子の1人暮らしは危ないからって言われて」
「親戚の家かなんかに住んでるの?」
「うん、いとこの家にね」
よし、うまいこと信じた。
幸村くんの言葉に同意しながら、自分で自分を褒め称える。…いや、嘘は吐いてないんだけどね。
なんて、思った時。
キンコンカンコン
「…これ終わりのチャイム?」
「ん。予鈴じゃな」
「うっわ、まだ昼飯食い終わってねーのに!」
どこかから聞こえてきた5限の始まり3分前を告げるチャイムに、屋上が一気に慌しくなる。
ちょっとブン太、そんな急いで食べたら喉詰まらすよ。
「それじゃあみんなまた後でね」
「はーい、そんじゃ!」
「じゃあな。ブン太、急いで食うのはいいけど喉詰まらせないように気をつけろよ」
幸村くん、切原くん、ジャッカルくんが三者三様の別れの言葉を告げ、それぞれの教室がある方へと歩いていく。
ふむ、結局柳くんに会うことは出来なかったけど、まあいざとなったらまーくんに頼むとして。
「ねえ、こんなゆっくり歩いてて大丈夫?」
そう言った途端に鳴った本鈴に、わたしたちは顔を見合わせる。
「やべっ、次ハマダじゃん!」
「芽衣子、走るぜよ」
「えっ」
やだ、走ったりしたら疲れるじゃん。
走り出した2人の背中を見ながらそんなことを思えば、あいつ授業遅れると課題出すんだよ!と振り返ったブン太が言う。
「それ早く言ってよ!」
駆け出したわたしに、ブン太とまーくんが笑う。
転校早々廊下を全力疾走することになるとは思わなかったけど、なんだか楽しいからまあいいや。