「かき氷って最近すげー色んな味あるよなー」
「トマトとかもあるらしいぜよ」
「え、マジで!?」
「前にテレビでやっとったよな、芽衣子」
お好み焼にたこ焼き、フランクフルトやじゃがバタ―。
それらをひとしきり食べ終え、さあ次はデザートだとばかりに歩き出して数分。
荷物あると邪魔になりそうだし、と手ぶらの芽衣子が人混みに流され迷子にならないよう、注意しながら俺と仁王は歩いていた。
「…ん?」
注意しながら歩いていたはずだった、のに。
「あれ、芽衣子は?」
仁王の声に反応しないことに違和感を覚え、振り返った時には遅かった。
芽衣子はすぐ迷子になるという仁王の言葉もあって、俺達で芽衣子を挟むような形をとり歩いていたはずが、気付けばなぜか芽衣子がいない。どういうことだよ。
「は、え、なんで芽衣子おらんの」
「いや、知んねーけど……まあついさっきまで話してたし、その辺いんだろ」
「芽衣子ー」
振り返り、時折声を上げながら人混みの中に芽衣子の姿を探す。
けれどそのどこからも芽衣子の姿を見つけることができないどころか、声すらも聞こえてこなくて。
「…あいつ、今携帯持ってなかったよな?」
「…加えて方向音痴じゃ」
「………これやばくね?」
夏の夜なんて本来暑くて暑くてたまらないはずなのに、俺の背中には冷たいものが走ったような気がした。
携帯なし、方向音痴、加えて初めての場所にひとりきり。
周囲の様子なんて目もくれずずっと飯を食ってたあいつの脳に、景色や目印とかそういう記憶が残っているとも思えない。
「あー……あと10分くらいで花火始まるし、手分けして探した方がよさそ、」
「あれ、丸井?」
よさそうだな、と仁王に言おうとした時だった。
くいっと袖口を引っ張られ反射的に振り返れば、そこにいたのは。
「おお、三宅じゃん」
「丸井も来てたんだね」
どくんと心臓が鳴り、一瞬、芽衣子への心配や不安が消えたような気がした。
けれど振り返る際の視界に仁王がいなくて、俺の思考は一気に目の前の問題へと引き戻される。
「あれ、仁王、」
「あ、やっぱ仁王も一緒だったんだ。何かものすごい勢いで走って行ったよ、すれ違いざまに声かけたけど聞こえてなかったみたい」
「あー……」
「何かあったの?」
言ってもいいものか、少し迷った。
もし言ってしまったなら、俺としては都合がいいけど、こいつはつらい気持ちになるだろう。
それを思えば、何でもないとだけ言ってすぐさま芽衣子を探しに行こうとも考えられた。
けれど俺は、ぐっと拳を作って。
「芽衣子とはぐれたんだよ」
賑わう祭りの空気の中、ひとりで不安な思いをしながらさまよい歩く芽衣子を思った。
こっちに来てから初めての祭り、浴衣を着て花火を見てと楽しみなことばかりだった中に訪れた不運にあいつの不安を思えば、黙ってこの場を去ることはできなかった。
たとえ三宅が傷つくとしても、心細い思いをしている芽衣子を放ってはおけなかったから。
「ついさっきまで一緒だったんだけど、あいつのこと見なかった?」
「見てない、けど」
「あー…そっか。じゃあ悪いけど、もし見かけたら捕まえといてくんね?連絡もらえたらすぐ迎えに行くから」
「あっ、ごめん。私も今友達とはぐれちゃって、それどころじゃないっていうか」
「マジか」
ごめんと言いながら困ったように笑う三宅に、どいつもこいつもだなんて考えは消え去った。
見たところこいつは荷物も持ってるようだし、友達に連絡したものの返事がないといったところなんだろう。
「で、1人だと心細いからさ。友達か谷岡さんが見つかるまででいいから、一緒にいてくれない?」
「おう、いいよ」
「ごめんね、谷岡さんのことで大変だろうに」
「まあ2人で探した方がお互いにいいっしょ。お前が一緒に来てる友達って部活の奴等だろ?」
「うん、いつもの4人」
「良かった、なら俺も顔わかるわ」
そんなことを言い合いながら歩みを進め、目を凝らして周囲を見回す。
けれどそのどこにも知ってる顔はなくて、やっぱり携帯持たせれば良かったなんて思うんだけど。
「…さっき見て、改めて思ったけどさ」
「ん?」
「仁王、谷岡さんのこと大好きなんだね」
あんなに必死なところ、見たことなかった。
その言葉にパッと三宅を見るも、背けられているためどんな顔をしているのかはまったくわからない。
けれどその声からは悲しみしか感じ取れなかったから、俺はただ静かに、聞こえていないふりをした。