「とりあえずシャワー浴びてから行くね。着く頃にまた連絡する」
「ああ、わかった」
日曜のお昼過ぎ、校門にて。
そう言葉を放った私は、まーくんのまたがる自転車の後ろに座って柳くんたちに手を振る。
カラカラカラ。自転車の車輪の音が、暑い日差しに心地いい。
「あっついのう」
「家に帰れば一気に涼しくなるよ」
「クーラー入れてきたん?」
「タイマーでね」
言いながらまーくんのお腹に腕を絡めるようにして掴まれば、暑さが一層増した気がした。
ああ暑い、本当に暑い。
「………………」
「あっ芽衣子、腕離しちゃいかんぜよ」
「でも暑い」
「落っこちたらどうするん」
絡ませて数秒、増した気のする暑さに耐え兼ねて腕をほどけば、目ざとくまーくんが指摘してきた。
別に子供じゃあるまいし、ちゃんと掴まってなかったくらいで落ちたりしないと思うけど。
そう思いながらももう一度腕を絡ませ、私は口を開く。
「っていうか、まーくん暑いの嫌いじゃん。引っ付かれて嫌じゃないの?」
「嫌じゃなか」
「……変なの」
部活中、ふざけたブン太にのしかかられた時は「暑いけ離れんしゃい」なんて鬱陶しそうに言ってたのに。変なまーくん。
そう思いながらいたずらに腕の力を強めれば、まーくんはカラカラと笑った。
「のう芽衣子」
「ん?」
「一緒に祭行くの、久々じゃな」
「うん、久しぶりだね」
小さい頃は毎年一緒にお祭り行って、リンゴ飴も焼きそばもかき氷もお好み焼も、すべてを2人で半分こしたっけ。
はぐれないように手をつなぎ合って、射的で私が欲しがったものは絶対に取ってくれて、下駄の鼻緒が切れて痛がってたらおぶってくれて、それで。
「…ふふ」
「ん、どしたん」
「ううん。昔のこと思い出して、色々嬉しくなってた」
「昔のこと?」
「うん。まーくんとお祭り行った時のこと」
数えきれないくらいの思い出が溢れ出してきて、懐かしさについ笑みがこぼれる。
ねえ、まーくん。
「この後のお祭りでさ。もし射的で私が欲しいものがあったら、取ってくれる?」
「そりゃあ、何が何でも取るぜよ」
「下駄の鼻緒が切れたらおんぶしてくれる?」
「痛い思いすんのも歩きづらいのもかわいそうじゃしのう」
「かき氷の味は、私が選んでもいいかな」
「ええよ」
芽衣子が喜ぶのが一番じゃ。
そう言ったまーくんがどんな表情をしているのか私にはわからないけれど、顔を当てた背中は熱くて、声はどこか熱っぽくて。
それが夏の熱さのせいなのかもわからない私にただひとつわかることは、まーくんは今も昔も、私のことが大好きなのだということだけだ。