「ねえブン太」
「ん?なに?」
「購買ってある、よね?」
4限が始まって数分。
見た目通りというか何というか、授業を真面目に聞く様子のないブン太に問えば、ああ、と小さな声がした。
ちなみにまーくんは左斜め前で爆睡中。さっきの方言みたいなやつのことをメールで聞き出そうと思ったんだけど…起こすのも可哀相だしね。っていうかどんだけ寝るの。
「あるけど、弁当持ってきてねーの?」
「あー…忘れてて」
「じゃあ昼休みに連れてってやるよ」
「え、いいよ」
「遠慮すんなって」
どうせ俺も購買行くし。
そう言ってガムをふくらませたブン太は、先生の声に真新しい教科書をめくった。
「おい仁王、」
「んん…なんじゃ…」
「後で芽衣子も連れて購買行くけど、お前も行く?」
ブン太の前、先ほども言ったようにわたしの左斜め前に座る仁王の背中を、ブン太がシャーペンの押す方でつんつんとつついた。
腕を枕にして寝ていた仁王はほんのりと眉間に皺を寄せている。
「あー…飲みもん買うけ、行く…」
「はいよ」
一言言って、仁王はまた突っ伏した。
実は同じクラスだった、ってだけじゃなくてすぐ近くの席だなんて思わなかったからびっくりしたけど、内心本当に心強い。
あ、もちろんブン太の存在もね。
「っつーことだから、4限終わったら3人で行くか」
「うん」
「昼飯どこで食うの?」
「適当に屋上にでも行こうと思ってる」
また寄ってこられたらちょっとアレだし。
そう言って苦笑すれば、ああ、とブン太が同意の声をあげる。
実は2限の時、始業式をサボった理由聞かれて正直に教えたんだよね。人が寄ってくるの嫌だったからって逃げ出したら、結果的にサボることになっちゃったって。
そしたら、お前おもしれーな、って笑い飛ばしてくれたから、ブン太とは仲良くなれるかもしれない、なんてちょっと思った。
「あー、屋上は今日俺らが使うんだよな」
「あ、そうなんだ。じゃあどうしよ」
俺ら?ていうのが誰かはわからないけど、もしかしたらその中にはまーくんも入ってるのかもしれない。
っていうか“今日”ってなに、屋上って予約制かなにかなのか。
なんて、考えていると。
「あ」
「?」
「じゃあ一緒に食おうぜ」
「え」
ブン太の提案に、思わず思考が停止する。
いや、まあそんなにおかしいことじゃないのかもしれないけど、
「邪魔になるからいいよ」
「大丈夫だって。仁王もいるし」
あ、やっぱりまーくんもだったんだ。
けど男の子と一緒に食べるっていうのは、…どうなんだろう。
「お前だって友達増やしたいだろ?」
「…ともだち」
「おう、まあ俺らの部活の仲間だけど」
部活仲間?
ってことは、2人は同じテニス部で……つまり、柳くんもいるかもしれないわけか。
もしいたとすればあの日のお礼が言えるかもしれないし…よし。
「…じゃあ、ご一緒していいですか」
「おう」
そうだよね、わたしを誘ったってことは、きっとマネージャーなり女子テニス部なり女の子だっているはずだ。
そんな期待に胸を膨らませ、時計の針に早く進めと願った。