「はー、うまかった」
「どうもー」
「皿洗うん?」
「うん、面倒になる前にやっとく」
見事空になったお皿にこっそり笑って、台所に向かう。
昨日の今頃は不安で不安で死にそうだったけど、何とかやっていけそう。まだ1日目だけど。
「それにしてもよく食うのう」
「うるさい」
「まあ食わん女よりよっぽどええけど」
「でしょ」
飲み物を注ぎにきたのだろうか、まーくんがグラスを持って台所にやってきた。
あ、わたしの分もやってくれるんだね。
「生活費のことならかなり仕送りくれるらしいから心配いらないよ」
「別に心配はしとらんよ。こっちもかなり送ってもらえるらしいな」
「実家暮らしじゃないのに楽な生活送れそうなくらい?」
「くらい」
マジか。
具体的にどれくらいなのかは聞かないでおくけど、まあ無駄遣いをしないに越したことはない。
「学校始まったらお弁当とか作る?」
「同じ弁当とか言われるけど、ええん?」
「…やめとく」
「芽衣子ちゃん冷たい」
自分で言ったくせに。
そう思いながらも適当に返せば、「ドライ芽衣子」とよくわからない文句を言われた。
「いいからお風呂入って来ちゃいなよ」
「覗く?」
「覗くか」
「信用できん」
「意味がわからない」
いいから早く行け、と言いながら泡だらけの手で顔を押す。
あ、ちょっと嫌そうな顔。面白い。
「ほら、早く行かないと髪にもつけるよ」
「つけたら芽衣子の風呂覗くぜよ」
「ごめん」
「じゃあ風呂行ってくるなり」
何かのCMソングを歌いながら、まーくんがお風呂場に向かう。
良かった、危険は回避できた。
「…来週からか」
ぽつりと呟いて、まだ見ぬ新たな学校生活を思い浮かべる。
いじめとかないといいけどな、なんて不安も頭をよぎったけれど、「芽衣子ー、パンツ置いといてー」というドアの向こうからの声に打ち砕かれた。