「ほら芽衣子、行くぞ!」

「ええええ…嫌だよー」


あれ、これデジャヴ?
私がそう思うのも無理はない、あれからおよそ20分後、試合を終えたブン太は私を引っ張って次の競技に向かおうとしていた。

ちなみにさっきの試合は、10対1といううちのクラスの圧倒的勝利によって終わった。
まさかまーくんがあんなに頑張って、しかもちゃんと活躍するだなんて思わなかったけど……後半は相手のクラスと戦ってるというよりブン太VSまーくんって感じで、どっちが点を入れるか争ってるようだったからな。
どっちにしたってうちのクラスの点になるんだからどっちでもいいのに、と言ったら、そういう問題でもないんだろうと柳くんは言っていたけど、私にはよくわからなかった。


「あ、芽衣子とブン太」

「あ、幸村ッ助けて」

「何してんの?」

「俺次卓球の試合だから見に来いって言ってんのに、こいつ面倒くさいとかって嫌がってんだよ」

「だって外暑かったんだもん、ゆっくりどっかで休みたいんだもん」

「芽衣子も往生際が悪いのう」


私の言葉に眉をひそめたブン太は、ひときわ強い力で私を引っ張って行こうとする。
一緒にいるまーくんはブン太のこと止める気配まったくないし、本当こいつは時々びっくりするくらいの裏切りを見せてくれる。

と、まーくんに絶望していると。


「芽衣子、助けてほしい?」

「えッ、助けてくれるの」

「うん。少なくともブン太の応援に行くよりは穏やかに過ごせると思うけど」


神はここにいた。いや、神の子か。
一瞬にして晴れやかな気持ちになった私はブン太の脇腹をくすぐり、手が離れた瞬間、パッと幸村の後ろに隠れる。


「別に、もうずっと応援に行かないって言ってるわけじゃないんだからいいじゃん」

「お前は強制しないとぜってー来ないだろ!」

「そんなことないそんなことない、約束する」

「……………」


疑いの眼差しを向けてきたブン太に「本当」と念を押せば、私の目の前にいる幸村の効果もあってか、ブン太は仕方ないと言いたげにため息を吐いた。


「…じゃあ、後で絶対来いよ!」

「うん、わかった」

「来なかったら絶交だからな!」

「…小学生か、あいつは」


私と同じことをまーくんも思っていたらしい。
心の中だけで突っ込めば、ブン太は卓球が行われているスペースの方に駆けて行き、偶然見つけたジャッカルくんに飛びかかっていた。


「いやー、助かったよ幸村。ありがと」

「どういたしまして。ブン太は明るいからファンの子も多いし、歓声もすごいからね。大変だっただろ」

「…本当、アイドルタイプってマジですごいわ」


応援の声にウィンクすればそこかしこから悲鳴にも似た叫び声が上がるし、ブン太が点を決めるたびにまた黄色い叫び声と拍手が沸き起こるし。もう本当、どこのアイドルだお前はと言いたくなった。
…けど、多分まーくんもいたから余計だったんだろうな。そうため息を吐けば、幸村は「ふふ」と笑う。


「それじゃ、行こうか」

「…行くってどこに?」

「決まってんじゃん」


俺の試合の応援。
笑って言った幸村の言葉に、私はくらりと眩暈がした。










「…何でこうなっちゃうんだろう」


目の前で繰り広げられる光景にそう愚痴れば、私の右に座った切原くんが「どういうことっすか?」と不思議そうな顔をする。
ここに来る道中で遭遇した切原くんを連れてきて、本当に良かった。
幸村から聞いた試合結果について「おめでとう」と言ったら、「先輩も柳さんも来てくんなかった」と拗ねるところとか、次は見に行くと言って頭を撫でたら一気に機嫌直っちゃうとことか、本当にかわいい。
それで勢いのまま連れてきてしまったけど…切原くんっていう癒しでもいなければ、私はきっと心が折れていたことだろうと、目の前の光景を見ながら思った。

ただいま行われているのは、3A対3Cのバレーの試合。
……つまり、真田くんや柳生くんのクラス対、幸村のクラスの試合、ということなんだけど。


「芽衣子、顔死んどるよ」

「…こんなことなら素直にブン太の応援行けばよかったかもしれない」

「え、さっきも丸井先輩の応援行ったのに?」

「連れてかれそうになったんだけど、幸村が助けてくれたんだよ。ブン太の応援よりは穏やかに過ごせると思うから助けてあげようか、って」


まさか俺の試合を見に来い、なんて言うと思わなかったからお願いしたのになあ。
確かに相手が柳生くんや真田くん、そして幸村だから、ファンの女の子という部分に関しては穏やかに過ごせている。幸村はまたちょっと例外だけど、彼らのファンは基本的には大人しい子や落ち着いた子が多いみたいだからね。

ただ、この状況は何だ。
確かにファンの子的な面では過ごせているけれど、選手本人からの威圧感で、私の心中はまったく穏やかじゃないんだけど。


「しっかし幸村部長すごいっすね、副部長たち手も足も出てねーじゃん」

「出とらんっちゅーより、出せないんじゃろ」

「出させないようにしてんだろうね…」


俺のこと応援してね。
試合が始まる直前、私に寄ってきてそう言った幸村の笑顔がいまだに脳裏に焼き付いている。
有無を言わさぬ笑顔に(最後の意地で)頷きこそしなかったものの、首を振ることもできなかった私をチキンだと罵る人もいるかもしれないが、あの威圧感を前に頷かなかったことを評価してもらいたいくらいだ。


「ほら、また1点決めたっすよ、部長」

「…テンション高いのう、幸村」

「それに対し真田くんと柳生くんは…」


バレーとなるとテニスとは勝手が違うのか、はたまた相手が幸村だからか。
本領発揮出来ていない様子の真田くんと柳生くんに、絶対に後者だな…と同情の眼差しを向けていると。


「ちょっと芽衣子!」


不満げな表情でたった一言そう言った幸村は、私が視線を向けたと同時に、満足げに微笑んだ。
そして私は、気付いていた。
あの呼びかけには、満足げな表情には、『お前は俺のことだけ応援してればいいんだよ!』的な思いが込められていたということに。


「…3Aの人たち、可哀相に」


ひきつった笑みを浮かべる柳生くん、笑う余裕なんてこれっぽっちもない真田くん。
対照的な2組を眺めながら、わがままなボスを持ったものだと苦笑した。



  


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