今日は教室か食堂で食べようと思ってたのに。
ブン太とまーくんに無理矢理連れてこられた昼休みの屋上で、わたしは小さくため息を吐いた。
いや、まあ実際1人で食べるっていうのは寂しいものがあるけど、だからって今日も今日とて屋上か。
ブン太この前「今日は俺らが屋上使う」的なこと言ってたけど、あの日(あるいはあの曜日)だけじゃないじゃん。
…なんて思いつつ、誘ってくれたことに嬉しさを感じたのもつかの間。
「 あ、」
「…む?」
開いたドアの向こうにいた人を見て、ここに来たことを一瞬で後悔した。
「わ、風紀委員さんだっ」
「お前は朝の…!」
やばい、また会ってしまった。
あああどうしよう。1人でしゃべってるのをいいことにいなくなったのはばれてるだろうし、怒られたりするのだろうか。
「真田、こいつと知り合い?」
「風紀検査の時にそいつが逃げたのだ」
「ちが、」
ずんずんと近付いてくる風紀委員さんがおそろしくて、ブン太と仁王を盾に隠れる。
やだよマジで勘弁してよ、なんでこの人もテニス部なんだよっ。
「芽衣子逃げたん?」
「…話はしたけど、途中からひとりで話し始めたから」
寒かったし、その足で屋上来ちゃった。
正直にそう言えば、2人は笑い、真田と呼ばれた風紀委員さんは呆れたようにため息をつく。
「その辺にしてあげなよ真田」
「うわびっくりしたっ」
「おお、幸村いたんか」
「ううん、今来たばっか」
さっきぶり、と白々しく笑って声をかけてきた幸村くんに、つい眉間に皺が寄った。
そんなことも気にせずドアの前にたまるわたしたちの前を行った彼は、風紀委員さんの肩に触れ、なにかを言う。
「……ね、なに話してるんだろ」
「お前のことだろ」
「…それはわかってるけどさ」
そうじゃなくて、怒られる可能性があるかどうかを知りたいんだけ……うわ、風紀委員さんこっち来た!
「お前は転校生なのか」
「え、あ、 はい」
「まだ知らないことも多かったのだな。朝はすまなかった」
あ、あれ?
てっきり怒られると思ってたのに、怒るどころか謝られた。なに言ったんだろう幸村くん。
「…わたし、も。勝手にどっか行ってごめんなさい」
「いや、気にするな」
俺は真田弦一郎だ、と言われたので、一応わたしも名乗っておいた。
なんかこの2日間で色んな人と知り合ったけど、全員男の子だな。
真田くんは、男の子ってよりは男の人って感じだけど。
「お前ら、後ろで柳生が困ってるぞ」
「なんじゃ柳生、来とったなら声くらいかけんしゃい」
「…かけられるような雰囲気ではありませんでしたよ」
幸村くんの横に座るジャッカルくんの声に振り向けば、メガネをかけた男の子がいた。
どうやらこの人もテニス部らしい。
「おや、お友達ですか?」
「先週転校してきた、谷岡芽衣子です」
「ああ、転校生の方でしたか。私は柳生比呂士です」
「あ。あなたが柳生くん」
「? はい、そうですが」
「ま、…仁王から、聞いた。友達だって」
「ああ、そういうことですか」
よろしくお願いします、と握手を求められたのでおずおずと右手を差し出せば、柳生くんは笑う。
この人もジャッカルくんと同じ系統っぽい。優しそうだな。
「ねえ、いつまでも突っ立ってないで食べようよ」
谷岡さんはここおいで。
聞こえた声に正面を向けば、幸村くんは自分の左側をポンポンと叩く。
その笑顔があまりに綺麗だったけど、写メのことはむかついてたので、この前同様まーくんの横に座ることにした。