「む、顔色は悪くないな」
「昨日よりは良くなったみたいだな、安心したぜ」
「あ、今仁王に渡したからね」
「大事に食ってくださいね!」
「あまり食べ過ぎるなよ。1日1本だ」
夕方過ぎにやってきた彼らは、わたしを見るなりそう言った。
インターフォンが鳴って数秒、「多分あいつらじゃ。俺が出るき、芽衣子はゆっくりきんしゃい」と告げ玄関に向かったまーくんを見送った直後、すぐ隣のリビングが騒がしくなった。
あいつら本当にわたしが病人ってことわかってんのかな…なんて内心ぼやきつつもやっぱり嬉しくて、ゆっくりでいいと言われたものの、なんだか早く顔が見たくてまーくんの部屋の扉を開いた。
ん、だけど。
「…とりあえず、真田くんとジャッカルくんの言ってることはわかるけど。幸村と切原くんと柳くんは、なに言ってんの?」
「なにって、お前自分で言ったんだろ。昨日」
「…昨日?」
わたしみんなになにか言ったかな、とブン太の言葉について考える。
…も、そんな記憶なんてなくって。
「パピコのことじゃ。芽衣子、LINE打っとる途中で寝たじゃろ」
「あー…そういえばそんなこともあったような気が」
「俺が言っといたんじゃ、明日来るなら1人1袋パピコ買ってきんしゃいって」
「…おおおおおっ」
ってことは、わたしとまーくんを除いた7人分×1袋2本で、14本のパピコがあるわけかっ。
まさかそんなサプライズ的なことが行われてるとはつゆ知らずだったわたしとしては、これは寝耳に水であり最高のプレゼントなわけで。
「あ、ありがとうっ…!」
「ふふっ、そんなに好きなの?」
「最近どハマりしてるのっ」
「芽衣子、冷凍庫に入れてあるき食いたかったら食いんしゃい」
「うんッ」
一瞬だけ体のだるさも忘れて冷蔵庫まで駆ければ、背後から「子供みたいだね」という幸村の微笑ましそうな声が聞こえた。
そして勢いよく開いた冷凍庫の中に広がっていたのは、
「わああ、夢みたい…!」
「夢みたいとかどんだけハマってるんすか!」
「でもまあ、普通に考えて1つの種類のアイスがあれだけ冷凍庫に入ってることってないよな」
「7人分だもんなー」
わくわくが止まらないわたしを眺め、切原くんとジャッカルくん、そしてブン太が笑う。
なんだか心なしか体も快復してきたような気がするんだけど、わたしの考え過ぎだろうか。
「ありがとうみんな、早速食べさせてもらうね」
「食べ過ぎないよう気を付けてくださいね」
「うん」
柳生くんの言葉に頷きつつ辺りを見回せば、まーくんが自分の目の前を無言で指さす。
……わたしなにも言ってないのに、どうして座る場所を探してるってわかったんだろう。流石まーくんだ、すごいな。
そう思いながらソファーに座れば、すぐ近くにいたブン太が「1本くれ」なんて言ってきた。
まったく、わたしのために買ってきてくれたんじゃないのか…なんて思いながらも、今更冷蔵庫の方まで戻るのは面倒だし。
「ん」
「サンキュ」
手にしていた半分をブン太に渡せば、その向こうにいるジャッカルくんが『ごめんな』と言わんばかりに苦笑した。
「それじゃ、いただきます」
「どうぞ」
その声に幸村を一瞥すれば、微笑んだ彼がわたしを見ていた。
そうしてアイスの先を口に含みながら正面を向けば、優しげな目をしたまーくんと視線がかち合う。
「うまい?」
「ん」
「よかったのう」
言いながらわたしを眺めるまーくんに、なぜか背中や肩の辺りがむずがゆくなる。
口いっぱいに広がったのは、ほろ苦いコーヒーと、甘いチョコがまじり合った味だった。