「……………」
見慣れた部屋だと思ってたけど、横になってみると案外新鮮なものなんだな。
まーくんのベッドに入って布団を被ったわたしは、わずかに痛みを帯びてきた頭でそう思った。
「芽衣子、飯食える?」
「…作ってたんだ」
「ん」
こっちの方がすぐに行ってやれるけ、俺の部屋で寝ときんしゃい。
そう言ってわたしを自分の部屋に押し込んだまーくんは、無理やりベッドに寝かせてシーツをかけてきた。
それから20分くらい経っただろうか。
ほかほかと湯気の立つお皿いっぱいの雑炊を持ってきたまーくんは、お盆をテーブルに置いてわたしの体を起こす。
「具合は?」
「…頭が少し痛くて、ぼーっとする」
「体だるいとかは?」
「少しだけ。そこまでじゃないよ」
「そか」
心配そうに眉尻を下げたまーくんは、再度「食える?」と尋ねる。
「食欲あんまりない」
「全部食わんでもええきに、ちょっとくらい食いんしゃい。じゃなきゃ薬も飲めんよ」
「…わかった」
ゆっくりとベッドから降りて床に座れば、ずいっと押し出されたお盆。の、上の雑炊。
すごいなまーくん、こんなの作れるようになってたんだ。
「いただきます」
「ん」
湯気すごいし絶対やけどするよな、なんて思いながられんげでかき混ぜ、一口含む。
…わあ、
「びっくりするほど味しない」
「えッうそ」
「ほんと」
わたしの言葉に目を丸くしたかと思えば、すぐに眉間に皺が寄る。
多分普通に味付け失敗したと思ってるんだろうな。風邪引いてるから味覚麻痺してるだけなのに。
と、思っていると。
「なんでじゃろ、柳生に言われた通りにしたんに」
「あ、柳生くんに作り方聞いたの?」
「ん。あいつ医者の息子やきそういうのわかると思って」
へえ、柳生くんってお医者さんの子なんだ、すごいな。
でもまあ、なるほど。そういうわけなら、柳生くんの名誉のためにもネタばらしは必要だな。
「味ないのは風邪引いてるからってだけだから、大丈夫だよ」
「あ、そういうことなんか」
「うん。ほとんど味がわからないだけでゼロじゃないし、多分失敗してないと思う」
熱いだけで普通に食べられるし、まずいわけではないだろう。
そう思いながらパクパクとれんげを口に運べば、まーくんがわたしのおでこに優しく触れた。
「あー、やっぱ多少は上がっちょるみたいじゃな」
「さっき計ったら38度弱だった」
「あーあーあー…それ食ったらさっさと横にならんと駄目じゃな」
明日は休むって幸村には言っとくき、と言いながら立ち上がったまーくんがどこかに行く。
そうして少ししてから戻ってきた彼の手には、冷却シートと新しい飲み物、それに薬があった。
「まだ食う?」
「…ううん、ごめん。もうご馳走様する」
「ん。じゃあ薬飲みんしゃい、そしたらこれ貼っちゃる」
渡された錠剤を口に含み、水でごくごくと流し込む。
冷たい水が食道を通っていくのがわかって、火照った体にはなんだか気持ちいい。
「ちぃと冷たいぜよー」
「う、…わ、つめたっ」
「少しの辛抱じゃ、すぐ慣れる」
ほれ、もうベッド入りんしゃい。
冷却シート越しにぽんぽんとわたしのおでこを叩いたまーくんは、そう言ってわたしを立たせる。
そうして食器を下げるまーくんの背中を見送ってベッドに入れば、お菓子やら飲み物やら、色々なものを持ってきた彼が床に座って。
「俺ここおっちゃるき、なんかあったらすぐ言ってな」
「うん」
「今日だけは俺のことパシってええきに、我慢せんでなんでも言うんじゃよ」
「わかったって」
別に、普段から頼んだら色々やってくれてると思うんだけどな。
そう思いながら彼のベッドにもぐれば、枕元に置いていた携帯が光った。