「芽衣子芽衣子」

「なに?」

「じゃーん」


夕飯も食べ終えた午後9時。
トントンと肩を叩かれ振り返れば、シリコン製のカゴを手にしたブン太が笑っていた。


「なに、そのカゴ」

「俺のお泊まりセット収納」

「…部屋着とか入れるやつをわざわざ買ってきたってこと?」

「おう」

「…だからやたら荷物多かったんだね」


あれ、そういえばほかにもそういう人いたような気がするんだけど。
その瞬間感じた視線に顔を向ければ、ブン太同様カゴを持って笑う切原くん。


「…切原くんも買ってきたんだ」

「ういっす」

「色これしかなかったんだよな」


そう言って顔を見合わせたブン太と切原くん。
2人はうちに泊まるの2回目だし、毎回部屋着とか持ってくる手間考えたらこれの方がいいだろうけど…あれだね。つまり今後もがんがん泊まりに来るってことだね。


「じゃあまーくんの部屋置いといて」

「え、なんで俺の部屋なん」

「日常的に使うものじゃないのにリビング置いといても邪魔になるじゃん」

「洗面所置いときゃええじゃろ」

「そんなスペースないし、高いとこだと手が届かないから無理」

「おい、お前俺らの荷物置かれちゃ嫌なのかよ」

「狭くなるじゃろ。ちゅーかなんでお前さんも俺の部屋に置きたがるん、どこでもええとか言えばええのに」


まーくんはあーだこーだ言ってるけど、リビングじゃ掃除の時にも邪魔だしまーくんの部屋で良いよね。
そう納得して辺りを見回せば、大人しくドラマを見る幸村に柳生くん、こちらに背を向けてるからなにをしてるかはわからないけど、ソファーに座る真田くん。

そして、ゲーム機を持つ柳くん。
………え、ちょっとどうしたの。


「…柳くん、ゲームする人だったの?」

「いや、これは赤也のものだ」

「あ、ああ…良かった、安心した」

「安心?」

「ゲームするイメージなかったから」

「そういうことか」


やってみろと言われてな、と言って顔を上げた柳くんの隣に座り、ゲームの画面を覗き込む。
…あ。これ、


「無双?だっけ?」

「ああ。戦国武将や三国志の人物が出てくるな」

「切原くんよく部室でやってるよね」

「結構前に発売されたものらしいが、最近またハマっているようだ」

「まーくんはポケモンとかゼルダとか、あとはモンハンとかよくやってたよ」

「ポケモンか、懐かしいな」

「ね。ゲームはやらなそうだけど、真田くんもこういうのは好きそう。武将とか」

「む?」


わたしたちの向かいに座っていた真田くんは、どうやら読書をしてたらしい。
その邪魔をしない程度の声量で言ったつもりだったけど、彼の耳には届いてしまったようだ。


「戦国武将とかが出てきて戦うゲームの話。ゲームはやらなそうだけど、こういうのだったら真田くんも楽しめそうだよねって話してたの」

「ああ、赤也がいつもやっているあのゲームか」

「そうそう。真田くん選択で日本史とってるしさ」

「確かに、ただの格闘ものよりは弦一郎好みかもしれないな」

「たるんどる、ゲームなんぞ視力低下を招くものでしかない」

「やってみると案外楽しいぞ。どうだ、一度やってみては」

「遠慮する」


そう言って再び本に視線を落とした真田くんに、わたしたちは顔を見合わせる。


「かたくなだね」

「ああ、かたくなだ」


数ヶ月前のわたしだったら、怒ってんのかなこの人、なんて思っただろう反応すらも真田くんらしく思えるんだから不思議。
まあ彼はハマっちゃったらとことん突き詰めちゃいそうだし…ゲームとかはやらない方がいいタイプだろうな、うん。


「上がったぞー」

「早かったのう」

「シャワーだけで済ましたからな」

「そうなの?せっかくお湯はったのに」

「悪い悪い。入ろうと思ったけど、手で触ってみたら結構熱かったからさ」


さっぱりとした顔でリビングに戻ってきたジャッカルくんは、わたしの言葉にお礼を言って幸村に視線を向ける。


「おい幸村、俺上がったからお前、「ちょっと待って今いいとこだから!」

「…じゃあ幸村の次は…切原くんだったよね?幸村ドラマ見てるから、「駄目俺が先に入る」

「えええ…」


なんでよ、まだ全然終わりそうにないし先に入らせてあげなよ。
よっぽどいいシーンなのか、TVから視線を外さない後頭部を眺めながらそう思うも、なにも言わない幸村。


「…いいよ切原くん、入っといで」

「駄目って言ってるじゃん」

「え、あ、あの…」

「ほらもう、切原くんおろおろしちゃってるじゃん」

「だって赤也って勢いよくお湯に浸かるから、赤也の後ってお湯すごい減るんだもん」

「だもんじゃないよ。気を付けてもらえばいいだけだし、さっさと入ってくれないと洗濯できないでしょ。今日着てきた服は明日持たせようと思ってるんだから」

「…………」


ちょうどCMになったタイミングということもあってか、ちらりとこちらを振り返った幸村。


「ドラマ見るのやめてまでお風呂行く気ないなら先に入らせてあげなよ」

「…仕方ないな。赤也、先に入っていいけど、お湯減らさないようにしてね」

「は、はい、すいませんッ」

「切原くんも、先に入らせてもらうことに関しては謝らなくていいから」


っていうかこの場において一番かわいそうなの柳生くんだから。
せっかくドラマ見てたのに、幸村のわがままに邪魔されるだなんて同情を禁じ得ない。


「…お前はブレないな」

「なにが?」

「いや、こちらの話だ」

「?」


ブレないってなんのことだろう。
リビングを出て行った切原くんを見送った瞬間言われた言葉に柳くんの方を見れば、彼の向こうにいる幸村が、べ、と舌を出した。



  


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