「そもそも芽衣子があいつと似とるとか意味わからん。確かに芽衣子は素直で頑張り屋さんな優しいええ子じゃ。でもよう考えてみんしゃい、芽衣子はとんでもなく面倒くさがりじゃし、胸じゃってあいつほど、ッ!」
「いい加減にして」
手にしたプラスチックのコップをまーくんに投げれば、見事彼の後頭部に直撃する。
あの後すぐにやってきたみんなは、抱き合う私たちを見て目を丸くした。
柳生くんは「あら」なんて言いながら口元に手を当てるし、幸村は「あ、ごめんお邪魔だった?」とか言ってにやにやするし……何か色々と面倒だったけど、とりあえず落ち着いてくれて良かった。
…と、思った矢先にこれだよ。
もう解消できた問題だったとはいえ、心配してくれる人もいたから何があったか話していいとは言ったけど…余計なことまでペラペラ喋ることは許してないよ。
「…とにかく、参謀が変な言い方するからじゃ」
「柳くんのせいにしないの。私が変な風に解釈しただけなんだから」
「芽衣子は気にしぃなんじゃけ、それ踏まえて話さなきゃいかんじゃろって言っとるだけなり」
「それ本人がいる前で言うことじゃないと思うよ?」
幸村の言葉にふいと顔を背けたまーくん。
拗ねてるのかなんなのか知らないけど本当幸村の言う通りだし、そんなに気を遣って話されるのだって嫌だよ。
「ごめんね柳くん、気にしないで」
「いや、仁王の言う通りだ。すまなかったな、谷岡」
「いやいや謝る必要ないから。…あ、ブン太にんじん大きい。それだとまーくん残すからもう少し小さめに切って」
「おっけ」
っていうか…むしろ謝らなきゃいけないのは、一時的とはいえみんなを疑った私の方だよな。
そんなことを思いながら、ブン太とともにキッチンで野菜をとんとんと切る。
「ってことで、みんなは適当にゲームでもして楽しく過ごしなさい」
「ゲーム!!」
「ブン太もやりたいでしょ、行っておいで。残りはわたしがやるから」
「マジか、わりーな!」
本当に私は気にしてないから。
それを伝えたくて言えば、嬉しそうに笑ったブン太が手を拭ってリビングに駆ける。
「ん」
「ん?」
「コップ」
「ああ」
てくてくと歩いてきたまーくんからコップを受け取れば、なぜか彼がキッチンに入ってくる。
…ゲームしないのかな。
「飲み物?」
「いや、手伝い」
「…別にいいよ、もう終わるし」
「手伝う」
「…………」
いいって言ってるのに、なんて思いながら横にずれてみれば、まーくんが左手に包丁を握る。
……料理得意じゃないのにどうしたんだろ、本当にもうちょっとで終わるんだけどな。
「これ切ればええん?」
「…あ、うん。それだけで終わり」
「じゃあ芽衣子はあいつらんとこ行きんしゃい」
「……、」
ああなるほど、早くみんなのもとに行かせたかったのね。
ここに来てやっとわかったまーくんの目的に、わたしの唇は自然と弧を描く。
「まーくん」
「ん?」
「さっきはごめんね、痛かった?」
「んーん。平気なり」
「良かった」
包丁を持つ手に視線を向けながらも後頭部を撫でれば、くすぐったいぜよ、とまーくんが笑う。
本当なら、柳くんを責めるようなことはして欲しくなかった。
けど彼は私と違ってそういうことは気にしないタイプだろうし、なにより、私のことを思って言ってくれたんだろうってことは痛いほどによくわかってるから。
「ありがとね、色々と」
「嫌じゃなかったん?」
「嫌がるってわかってたけど、言わずにはいられなかったんでしょ」
「まあそうじゃけど」
「ならいいよ。嬉しくなかったって言ったら嘘になるし」
ただし、胸の件は許さない。
まーくんのカレーにはにんじんを多めに入れてやろうと心に決め、私はみんなのもとに向かった。