…どんな顔してみんなと話せばいいんだろう。
それが朝食を終えたわたしにとって、一番の課題であった。
みんながなにも悪くないことはよくわかってる。
きっとこんなのは下らない被害妄想で、承認欲求で、子供じみた甘えでしかないことだってわかってる。
それでもわたしは、わたしだから選ばれたんだと思いたかった。
柳くんにあの話を聞いて初めて気付いた自分のおこがましさに、自分のことながら失望した。
「この後ってどうするんすか?」
「せっかくだしどっかで遊ぼうか」
……とはいえ、できれば帰りたい。
なんてことはね、きっと許されないってことはわかってるから言わないけどね。
それでもできるだけひとりか、あるいはまーくんと2人でいたい。
だって今のわたしは冷静じゃないし、なにかをきっかけに思いが爆発する可能性だってないとはいえない。
だから誰かが気付いて、今日はもうこれで解散ってことにしたかったんだけど――…
わたしのそんな切なる願いは、
「どうせだし、仁王たちの家行く?」
当然かつ残念ながら、叶う兆しのきの字も見えない。
……なんだよどうせだしって、そこのところ詳しく言ってよ部長。なんで望んでたことと真逆になるの。
無意識に寄る眉間の皺を隠すこともできずに思えば、顔に出過ぎだ、と柳くんが笑った。
「あ、いいこと思いついた」
「…いいこと?なんですか?」
「今度はみんな制服取りに一回家戻ってさ、今晩は仁王たちの家泊まろうよ」
「おお、いいっすね!」
勘弁してくれよ。
頼むから、本当にそういうの勘弁してよ普通にッ。
そもそもうちに余分な布団とかないの知ってるでしょ、グラスやお皿だって人数分ないんだよ、君たちうちを当てにし過ぎだよ。
……っていうか、なんでこのタイミングだよッ。
「いい?」
「………」
「芽衣子は嫌みたいじゃけど」
「いーじゃんいーじゃん。昨日は真田の家泊まらせてもらったんだしよ、恩あるだろぃ?」
「真田くんに恩はあってもあんたたちにはない」
「ふふ、ひどい言い草だね。誰の歓迎会だったと思ってるんだい?」
「……………」
歓迎会だなんて、純粋にわたしのためじゃないくせに。
真っ先に抱いたその思いを自分自身で律し、わたしはグッと唇を噛み締める。
「…芽衣子?どうしたん?」
「……ううん、わかった。ごめん」
駄目だ、こんな気持ちみんなにぶつけたって仕方ない。
似た人がいれば重ねてしまうのは自然なことなんだから、みんなを責めたりしちゃいけない。
自分自身にそう言い聞かせため息交じりに言えば、ブン太や切原くん、それに幸村が楽しそうに笑う。
「それじゃ、俺たちはいったん家に帰って荷物持ってくるから2人は先に帰ってていいよ」
「…じゃあみんなが来るまでの間に、どっかで食器とかカトラリー買おっか」
「駅前に100均あるし、そこでええじゃろ」
「そうだね」
うん、短い間だろうけど、まーくんと2人になれる。
それに少し胸を撫で下ろして、家にある食器やカトラリーの数をぼうっとしながら考える。
「よし、じゃあ決まりだね。準備終わり次第出るから、みんなさっさと荷物まとめて」
「はーい」
「ういー」
…本当、人の家に行くとなったら元気だなこいつらは。
真っ先に返事をし、いそいそと支度を始めた切原くんとブン太を眺めながら、ひそかにため息を吐く。
「昨日今日は忙しいのう」
「…ほんと」
こっちの気も知らないで。
みんなはなにも悪くないってわかってるはずなのに、どうしたってわたしの心に浮かぶのは、彼らを責める言葉ばかりで、本当に嫌になる。
「…芽衣子。芽衣子、」
「っ…あ、え?ごめん、なに?」
「…どうしたん?なんか今日ぼーっとしとるけど」
「あ、ああ…寝不足なのかも」
ごめん、大丈夫だよ。
作り笑顔をまーくんに向けて言えば、彼はわずかに怪訝そうな顔をして首を傾げる。
「具合悪いんか?もしそうなら今日は無理って、「大丈夫」
「……ほんとに?」
「ほんとに」
ああもう、どうしてわたしの日常って、こんなにもみんなへの内緒事で溢れてるんだろう。
信じてもいない神様を恨めしく思いながら、心のうちでため息を吐いた。