みんなも寝静まった午前2時。
窓際にしゃがみ込んだわたしは、数ヶ月前であれば考えられないほどに少ない、数えるほどの星を眺める。

眺めながら、焼肉屋でジャッカルくんが言ってた言葉の意味を、考える。


「…眠れないのか?」

「……あれ、柳くん」


バサ、という音に続いて聞こえた声に振り返れば、体を起こしてこちらを見ている柳くん。
起こしちゃったのかな、だとしたら申し訳ない。


「ごめ、「『起こしちゃった?』とお前は言う」

「……………」

「ふと目が覚めただけだ。気にすることはない」

「…ならいいけど」


静かに布団を抜け出した彼は、抜き足差し足で窓際まで歩き、わたしのすぐ横に腰を下ろす。


「考え事か?」

「まあ、それもあるけど。星が少ないなって思ってた」

「確か…前住んでた場所は自然が多かったと言っていたな」

「うん。もっと星も多かった」


単に気付いたってだけで、別に都会が住みにくいわけでも寂しくなったわけでもないから、それがどうしたって言われたらそれまでなんだけどね。
なんて思いながら、柳くんを一瞥する。


「どうした?」

「…いや、」


ちょっと聞きたいことがあって…と言いたいけど、柳くんの眠気がどの程度なのかもわからないし、長話になってしまう可能性を考えるとやめといた方がいいかな。
そう躊躇っていると、


「言ってみろ」

「…柳くん、わたしの考えてることわかるの?」

「お前は自分が思っている以上に顔に出やすいぞ」

「じゃあ今わたしが考えてること当ててみて」

「流石にそれはわからないさ。ただ、なにか言おうか迷っているようだったからな」

「…それだけわかってくれれば十分」


つまり、今眠いのかどうかは別として…とりあえず話を聞いてくれる気ではいるってことはわかった。
それならば、と言わんばかりに背後のみんなが眠っていることを確認し、ゆっくりと口を開く。


「あのさ、どうしてみんな閉鎖的だったの?」

「……どういうことだ?」

「自分たちだけが仲間だって思って、テニス部以外には気を許さなかったらしいじゃん。ジャッカルくんに聞いたよ」

「…ああ、そういうことか」


あれ、なんかこれ既視感。
前にもこんな感じで、わたしの言ったことがすんなり理解してもらえなかったことがあったような気がするんだけど…何の時だったっけ。
そう考え出したと同時に「そうだな」という柳くんの声がして、思考をすぐさま遮断する。


「ほかにもなにか言っていたか?」

「んー…そもそもこの会話は、マネージャーになったことと、嫌がらせ受けても続けてることに対してお礼を言われたことがきっかけなんだけど」

「ああ」

「お前が合宿に参加してから変わったとか…テニス部以外には気を許さなかった俺らがよそ者を入れられるようになるとは思わなかった、的なこと言われたの」


聞こうと思ったタイミングでみんなのとこ着いたから聞けずじまいだったけど、まーくんのいとこだからってぐいぐい絡んできたみんなのことを覚えてるだけに不思議だったんだよね。
もっと言えば、いとこだってバレる前からものすごい構ってこられてた気がするし。


「最初の頃のみんなの様子を考えるとそうとは思えなかったし、なんか、核心には触れないようにしながら外堀だけを話されてる気分だった」

「そうだな」

「…え?」

「お前が今言ったこと以上のことをジャッカルから聞いていないなら、まさにその通りだ」


その通りってどういうこと。あくまで気分でしかなかったんだけど、マジで大切なこと隠されたりしてたの?
そう思いながら柳くんに言葉の続きを促せば、彼は珍しくわずかにうつむいた。


「ジャッカルが言っていたことは本当だ」

「…テニス部以外とは一線引いてたの?」

「そうだな。普通に話はするし関わらないわけではないが、今思えば距離は置いていた」

「でもそれっておかしいことなの?同じ部活なんだから仲間意識強いのは当然だし、むしろいいことじゃん」


そういう関係だからこそ話せることとかがあるのは、普通だと思うんだけど。
これまで部活に入ったことがなかっただけに関係性とかはよくわからないけど、わたしだって、そこらの一クラスメイトとみんなとじゃ雲泥の差があるよ。


「ジャッカルの言葉だけを聞けば、そう思うかもしれないな」

「…煮え切らないね」

「俺にとっても話しづらい…と言うと語弊があるが、そう軽々と話したいことではないんだ」

「…………」


軽々と話したくないって…別にわたしだって、さっさと話せって言ってるわけじゃないんだけど。
そう思って黙り込めば、すまない、と柳くんが言った。


「気を悪くさせたかったわけではないんだ。ただ、俺たちにとってもつらい記憶ではあってな」

「…いや、うん。わたしもごめん」


つらい記憶ってなんだろうと思うと同時に、わたしはきっと、みんなの深いところにあるものに気付くことすらなかったんだろうと漠然と思った。

……うん、なにかしら事情があるんだろうし、柳くんも話さないとは言ってないんだ、気長に待つとしよう。

そう思った瞬間、



「1人だけ、マネージャーがいたんだ」



今にも消えてしまいそうな柳くんの声に、ハッとして彼を見る。
その横顔はどこまでも悲しそうで、わたしにはもう、なにも言うことはできなかった。



  


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