「はー、食った食った!」
「高いだけあっておいしかったね」
「俺は若干気分悪いなり…」
「結構脂乗ってたもんね」
眉間に皺を寄せたまーくんの背中を左手でさすりながら、右手で携帯をいじる。
えーと、跡部くん跡部くん…あ、いた。
「メールっすか?」
「うん、跡部くんにお礼のね」
「流石、律儀な谷岡さんですね」
律儀…なのかな、普通だと思うけど。
そんなことを思いながらお礼の文面を入力し終え、さっきみんなで撮った写メを添付する。
「すまない、待たせたな」
「あ、おかえり」
「蓮二も真田も来たし行こっか」
お前たちは先に出ていてくれ、と言ってトイレに行った柳くんと真田くんが戻り、全員が外に出たところで幸村が声を上げた。
え、行くって…
「どこか行くの?帰るの?」
「あ、そっか。芽衣子にはまだ言ってなかったね」
そう言った幸村は真田くんと目配せをして、わたしを見てにっこりと笑う。
な、なんだよ。そんな満面の笑み浮かべられても嫌な予感しかしないんだけど。
「この後なにすると思う?」
「知らないけど」
「ヒント、俺が持ってくるように言ったもの」
幸村が持ってくるように言ったもの…?
なんだったっけ、と一瞬考えたけど、その答えなんてひとつしかなかった。
「…着替え?」
「うん、着替えだね」
「…っあ、もしかしてお泊まり?」
「ピンポン、大正解」
嫌な予感とか気のせいでしかなかった!
誰の家にお泊まりするのかは知らないけど、やばいやばいすごい楽しみッ。
「えっ、誰の家泊まるの?」
「真田の家じゃ」
「真田くんの家ってうちら全員泊まっても大丈夫なくらい大きいの?」
「うむ、我が家は道場だからな」
「門下生の方もよく泊まっていかれるそうですよ」
へえ、道場か、すごいな。
わくわくしてきた気持ちにやり場もなくまーくんの腕をぶんぶんと揺すれば、彼は小さく笑う。
「はいはい、楽しみなんじゃな」
「うんっ」
「……親子?」
「あいつの親は俺だったはずだが」
切原くんと柳くんのそんなやりとりを聞きながら、なおもまーくんの腕をぶんぶんと揺さぶる。
合宿のお泊まりだって楽しみだったし実際楽しかったけど、今日は気心知れたみんなだけでの泊まり。
まあ人のお家だからそれなりに緊張するけど、それ以上に楽しみでたまらない!
「ねえ、早く行こうよっ」
「お菓子買ってこうぜ!」
「買おう買おう、いっぱい買おっ」
「よし、じゃあ早く行こうぜ!」
そう言って走り出したブン太を追いかけるように、まーくんの腕を離したわたしも駆け出す。
まだまだ終わる気配のないみんなでの夜に、わたしの気持ちは最高潮に高ぶっていた。