「いっぱい買ったね」
「あー早く食いてえ。なあ芽衣子、今食っていいかな」
「部室戻ってからにしたら?」
ブン太とともに大量のお菓子を買ったわたしは、再び昇降口に立っていた。
わあ……心なしかさっきよりも雨が強くなってる気が、「あれ、先輩たちなんしてんすか?」
「おー赤也」
「遅かったね、今HR終わったの?」
「掃除当番だったんすよー、せっかくのオフなのに最悪っす」
傘を広げようとした瞬間かけられた声に振り返れば、切原くんがこちらに駆け寄ってきた。
…あれ、切原くんも傘持ってない。
「傘忘れた?」
「いや、折りたたみ持ってるっす」
「おお、よかった」
じゃあさっきの通り、わたしとブン太は一個の傘で行くか。
バサッと広げた傘をブン太に渡し、代わりにお菓子の入った袋を受け取る。
「なに買ったんですか?」
「お菓子。部室でお菓子パーティーしようって話してたんだ」
「へー、いっすね」
傘に当たる雨の音を聞きながら、3人で部室まで歩く。
……うん。明らかにさっきより降ってるし、なんか風まで出てきたような、
「わ、ッ」
「おわっ!」
ビュン、と突然吹いた強い風に持っていかれ、ブン太が声を上げた瞬間バキバキと裏返しになって折れた傘。
うっわあ……どうしよ。
「やっべ…悪い芽衣子、傘駄目になっちまったわ」
「いや、あの突風じゃ仕方ないよ」
「えッ大丈夫っすか先輩たち」
「…切原くんの傘もバッキバキじゃん」
「今の風マジでやばかったっすね」
台風並みだよな、と言いながら折れた傘をまとめたブン太。
…うううん、これはこれで楽しいけど、2人に風邪ひかれちゃ困るしな。
「部室まで走るよ」
「走ったところで濡れる量そんな変わんないだろ」
「量じゃなくて、体が冷えた状態で雨に濡れてる時間の問題」
これが引退後とかだったらびしょびしょになって遊んだりしても全然いいと思うけど、今はまだ大会を控えてる身なんだからね。
そうしてわたしは走り出したけど、土砂降りとはいえ部室までは全然距離もないし、走れば大して――…
「先輩転けないように気を付けてくださいねー」
「お前案外ドジなんだからなー」
「ちょっ、なんで2人とも歩いて、ッ」
パシャンッ
「あーあ…派手に転けたな」
「大丈夫っすか先輩ッ」
「…………」
切原くんの声にバッと振り返った拍子に、水たまりに足をとられて思い切り転んでしまった。
あああ…痛いしびしょびしょで気持ち悪い……
「ほら、大丈夫か?」
「あーあ、足擦りむいちゃってますよ。血は出てないから平気そうっすけど」
ブン太に引っ張り上げられたと同時に、しゃがんだ切原くんが足についた泥水をパパッと払う。
…なんか子供みたい、わたし。
「…2人が走らないから」
「え、俺らのせいかよ」
「もういい、存分に濡れてやるッ」
「えッ先輩!」
こうなったらやけだ。
そう思っていつもよりも大股で、パシャンパシャンと水の音を大袈裟に立てるようにして歩く。
「仁王に怒られるぞー」
「怒らないよ、まーくんだってどっちかって言ったらびしょびしょになって帰るの楽しいって思うタイプだから」
「え、そうなんすか?そういうイメージないっすけど」
「出先では嫌がるけど、家までの帰る道とかなら全然いとわないよあの人は」
お菓子の袋をぶんぶん振り回しながら、昔のまーくんの姿を思い出す。
傘も持たず遊びに出た帰り、突然の大雨に2人してはしゃいで、びしょびしょになって怒られたなあ。ふふ、懐かしい。
「よし、到着ー」
「傘ここ置いといていいっすかね?」
「いんじゃね、壊れてるし持ちこんだら部室濡れるし」
傘をバサッと置いた2人を確認して、濡れた手でドアノブを握る。
それと同時に開いたドアに驚きながらも見上げれば、嬉しそうに笑ったまーくんがいた。