えーと、これはどういうことだろう。
さっきから続々と屋上に集まってきた人たちは、みんながみんな格好良い。
…うん、それは結構なんですけどね。


「…ブン太、女の子は?」

「いねーよ、俺ら男子テニス部だし」

「…そうですか」


男子テニス部。
ちなみにマネージャーはいないらしい。尋ねようとしたら、わたしの考えを読んだかのように仁王が教えてくれた。


「あれ、お客さんだ」

「あーっ!さっきの人!」


突然聞こえた大きな声にびくっとして、思わずパンを落としそうになった。
危ない危ない、仁王がキャッチしてくれなかったらわたしのお昼なくなるとこだったよ。


「ごめん、ありがと」

「ん」

「赤也知り合いなの?」

「さっき購買で会ったんすよー」


まーくんにお礼を言ってドアの方を見れば、ついさっき購買であった切原くんと、やたらと綺麗な顔をした人。
その後ろにいる色黒の人はジャッカルくんといって、自分のパートナーであるとブン太が教えてくれた。


「なんでここいるんすかー?」

「俺が一緒に食おうって誘ったんだよ」


ブン太の返答に「へー」と言いながら興味深そうにわたしを眺める切原くん。
…なんていうか、テニス部って濃いなあ。色んな意味で。


「見かけない顔だね」

「うちのクラスの転入生じゃ」

「へえ、そうなんだ。俺は幸村精市、よろしくね」

「谷岡芽衣子 です」


すごい綺麗な顔してるから女の子かも、とか思ったけど、やっぱ男の子か。残念。
そんなことを考えながらぺこっと頭を下げれば、幸村くんは満足げに笑って腰を下ろした。

…しかし、柳くんはまだ来ないのだろうか。ドアが開くたびに柳くんかと期待するのは疲れたのだけど。


「ねえ、柳くんは?」

「さあ、知らん」

「え、お前柳と知り合いなの?」

「知り合いっていうか、転入試験の日に迷ってたら声かけてくれた」


ブン太の問いに答えれば、切原くんの横に座った幸村くんが「生徒会の集まりがあるみたいだよ」と教えてくれた。
生徒会とは…頭が良さそうという第一印象に間違いはなかったらしい。


「柳生は?」

「真田と一緒に委員会のことで呼ばれて職員室だよ」


仁王の口から出た知らない名前に首を傾げる。
やぎゅう、って。


「…野生の牛?」

「ぶッ」


なんでここで牛が出てくるの、しかも職員室とか意味わかんない。
そんなことを思いながら言えば、ブン太がジュースを吹いた。汚い。


「違う違う、柳に生でやぎゅー」

「やぎゅ、う。くん」

「俺の親友。兼、ダブルスのパートナー」


ということはつまり、さっき言ってたブン太と…何だっけ、バッファローくん?今ブン太にティッシュを渡してる男の子みたいな仲なのだろう。


「それにしても、2人は仲が良いんだね」

「えっ」


突然放った幸村くんの言葉に、心臓がどくんと大きく跳ねる。
実はさっき耳打ちした時に、「ブンにもいとこってことは内緒な」って言われたんだよね。
どうやら隠したいってよりは教えた時にびっくりさせたいらしく、わたしもそれには同意したから、早々にこんなことを言われるなんて流石にドキッとした。


「1限の始業式ん時偶然屋上で会ってな。席もブンの隣じゃし」

「へえ、そうなんだ」

「転校早々サボる奴とか滅多におらんじゃろ?」


にや、と笑いながら言ったまーくん。
その表情に森の中で吐かれた嘘を思い出し、眉間に皺が刻まれたのは言うまでもない。



  


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