「はー、お腹は満たされたけど暑いね」
「この時期の鍋だからな」
腹を押さえながら言う精市に苦笑し、すっかり暗くなった道を歩く。
仁王が谷岡を連れてどこかに行った。
最初に精市や赤也から聞いた時は驚いたが、話を聞けば納得できたし、なにより谷岡の気持ちも落ち着いたようなので安心した。
疲れた体に鞭を打ってあいつらの家に行って、待っていて、良かったと思えた。
「ねえ蓮二、どう思う?」
「…谷岡に嫌がらせを働いている奴のことか?」
「いや、それは仁王とも話したから大丈夫。基本的には誰かしらが芽衣子と一緒にいるようにして、最悪の場合以外俺たちは手出ししないことにしようってことになったよ」
「そうか。谷岡の性格を考えても、その方がよさそうだな」
いくら俺たちが原因とはいえ、こちらから芽をつもうとしたりするのは、きっと谷岡は嫌がるだろう。
そう納得して頷き、視線を向ける。
「『どう思う』というのはなにに対してだ?」
「ああ…うん、仁王のことなんだけど」
わずかに眉をひそめた精市の意図するところがわからず黙っていれば、奴はためらいがちに口を開いた。
「俺、ちょっと思ったんだけどさ」
「ああ」
「仁王って、芽衣子が好きなのかな」
精市の言葉に、俺は一瞬息を呑んだ。
仁王が谷岡のことを好きだなんて、そんなこと。
「今更だろう」
「いや、そうじゃなくて」
「…そうじゃない?」
それならなんのことを言っているんだ。
俺がそう問う間もなく精市は、
「恋愛って意味で」
とんでもないことを言ってくれた。
仁王が谷岡を恋愛対象として見ている、精市がどこに対してそう思ったのかは知らないが、確かにあいつらは仲が良い。
主に仁王からとはいえ、特に合宿中はスキンシップも多かった。
しかし、
「…あいつらはいとこだろう」
「いとこって確かに身内だし血縁関係もあるけど、一応結婚できるじゃん」
「それはそうだが……」
だからといってそんなことがあるのか?
確かにあいつらは仲が良い、本当に仲が良い。
しかしそれは昔からの付き合いに裏付けされているものであり、それが恋愛に直結するというのもまたおかしな話に思えてならない。
……が、
「俺の勘違いとか気のせいって言われたらそれまでなんだけどさ。仁王が芽衣子のことを話してる時の目とか雰囲気がいつもと違って見えたんだよね」
「…違って見えた?」
「んー、なんていうのかな。優しげっていうか、内容が内容なのに楽しそうだったっていうか」
きっと俺たちが食材を買いに行っていた時のことを言っているのだろう。
当然その時俺は仁王のことを見ていたわけではないから、なにか言うことができるわけもないのだが――…
「それにさ。俺に話す前に、芽衣子のこと怒らないでやってって言ってきたんだよあいつ。本当、芽衣子が関わると一気に別人みたいになるよね、仁王って」
「…それなら、谷岡も言っていたぞ?」
「怒らないでやってって?」
「ああ。実は、仁王はそんなに悪いことしていないからと」
「どんだけ仲良いんだろうね、あいつら」
クスクスと笑いながら言う精市に、少し気分が落ち着いた。
仁王も谷岡と同じことを言っていたとは思わなかったが…それほどお互いのことを大切に思っているというのは今に始まったことではないし、深く考えることもないだろう。
「でも、そっか。雰囲気は別として芽衣子も言ってたなら、俺の勘違いかもしれないね」
「俺はお前たちが話していた時の様子を見ていたわけではないから、そこに関しては言及できないがな」
「まあ仁王本人が言ってたわけじゃないし、あくまで俺がなんとなく思ったことだから」
「ああ」
それならいいんだが。
口にはしないままそんなことを思えば、
「でもさ」
「ん?」
「もし本当に、仁王が芽衣子のことを好きだったら」
ちょっと厄介だよね。
言いながら苦笑した精市に、俺も思わず苦笑した。