「さて。今日のアレは一体どういうつもりだったのか教えてもらえる?」
「……………」
「ご丁寧に2人して携帯の電源まで切って、よっぽど部活に出たくなかったみたいだけど」
やばい、めっちゃ怖いんじゃけど。
何で自分の家なのにこんな居心地悪いんじゃ、全然安らげん。
その理由のひとつはもちろん、芽衣子と柳が出て行って、幸村と2人きりになったから。
そしてもうひとつは、
「はああああ……」
「何?」
「……芽衣子はああ言っとったけど、やっぱ抵抗あるもんじゃな」
いくら芽衣子がいいと言っても本心としては知られとうないんじゃろうし、内容が内容だけに言いづらい。
けど適当なこと言っても納得してもらえるとは思えんし……
「仁王?」
「……のう幸村、話す前に1つ、約束して欲しいんじゃけど」
「…何?」
「芽衣子のこと、怒らんでくれんか」
あいつも頑張ったんじゃ、色々と。
独り言のようにそう言えば、幸村の目が少し鋭くなったような気がした。
「…何の鍋にしたらいいんだろう、」
「キムチ鍋はどうだ」
「…わたし辛いの苦手なんだけど」
「キムチがいいんじゃないか」
「……寒かったの?」
「いや、俺の気分だ」
「……そう」
柳くんとともに来たスーパーで、彼の持つカゴにぽんぽんと食材を入れていく。
幸村がなに鍋食べたいのか知らないけど、携帯は置いてきちゃったし多分電話していい状況じゃないし…うん、柳くん提案のキムチ鍋にするとしよう。
えっと、野菜は入れたからあとはお肉と、「お前たち、どこに行っていたんだ?」
「…え?」
「どこに行っていたのか聞いている」
「………あの、柳くん」
「何だ」
「……柳くん、結構怒ってるよね今」
「精市の仁王に対する怒りほどではない。…が、多少はな」
「…ごめん。なさい」
そうだよね。
これがもしテニス部員とただのわたしだったらそこまでことは重大じゃないけど、今やわたしだってテニス部員なわけだし。
…結局わたしの意図しないところで、みんなに迷惑かけちゃったな。
「萎縮するな。そうは言ったが、お前に対しての怒りは仁王へのそれよりはるかに少ないし小さい。普通に聞いているのだから、お前も普通に答えればいい」
……本当かな。
確かめるようにちらりと柳くんの顔を見やれば、わたしを安心させようとしているのか、わずかに笑った彼がいた。
「で、どこに行っていたんだ?」
「………………うみ」
「…ん?」
「…海、行ってた」
わたしの言葉に一瞬足を止めた柳くんは、眉をひそめて再び口を開く。
「…なぜ海に行ったんだ」
「…わかんないけど、まーくんが行こうって」
「…海でなにをしたんだ?」
「足だけ海入ってじゃれて、砂浜でご飯食べて、お菓子食べながら喋って、シャボン玉やって……花火やった」
「…比較的満喫したんだな」
「ああ、うん」
再び歩き出した柳くんに合わせ、わたしもゆっくりと歩を進める。
えーと、お鍋のもとは……あ、あった。
「しかし、なぜそんなことになった?」
「………………」
「…谷岡?」
…まあ、聞かれるとは思ってたっていうか、むしろ聞かれて当然のことなんだけど。
そしてきっとわたしには、部活をサボったってことで、答える義務があるんだろうけど。
「1個、約束して欲しいの」
「何だ?」
「ちゃんと話すから。まーくんのこと、あまり怒らないであげて」
実はまーくん、そんな悪くないんだよ。
苦笑しながら言えば、柳くんがため息を吐いた。