やっちまった。
この後の授業も部活もサボって芽衣子を好きなとこに連れてこうっちゅーのは、屋上で話しとる時点で思っとった。

けどまさか、あの状況で幸村に見つかるとは……明日が怖いどころか、もはや家に帰ること自体若干怖いのう。
玄関の前で待ち伏せとかされとったらどうしよ。


「…芽衣子、携帯の電源切っときんしゃい」

「え、なんで?」

「今日は全力で遊ぶんじゃ。携帯なんかに邪魔されるわけにはいかん」


携帯っちゅーか、あいつらに邪魔されんように。
芽衣子が明日のことなんて、学校のことなんて考えんでもええように。

そう思いながら言えば、しゃがみ込んだ状態でシャボン玉や花火、大量の菓子や飲み物をビニールから取り出しとった芽衣子は、携帯をじっと眺めた後大人しく電源を切ってバッグにしまった。


「さーて、まずはなにするかのう」

「っていうかなんで海だったの?」

「山が良かったんか?クマさん出て芽衣子食べられるぜよ」

「む、昔の話しないでよッ」


海でいいッ。
少し不貞腐れたような声で言った芽衣子に笑って上履きを脱げば、俺の真似をするように芽衣子も上履きを脱いだ。


「上履きで来ちゃったね」

「まああの状況じゃ仕方ないじゃろ」

「…ローファー大丈夫かな」

「……幸村もそこまで陰湿な奴じゃないぜよ」

「いや、そうじゃなくて」


昨日の朝上履きなくなってたから、明日学校行ったら今度はローファーなくなってたりしないかな。
しゃがんどる体勢がきつくなってきたのか、砂浜に座り込んで靴下を脱ぎながら言った芽衣子に、言葉を失った。

…いや、俺さっき学校のこととかあいつらのこと考えんでもええようにって思ったばっかなのに、なんで早速幸村の名前出したんじゃ。
ちゅーか、え、上履きなくなってたってどういうこと。今履いとったそれなんなん。


「…まあいっか、そしたらスニーカー履いてこ。そんでまーくんの下駄箱に入れよう」

「…………芽衣子ちゃん」

「なに?」

「行くぜよ!」

「えっ、」


座り込んだ芽衣子を無理矢理立たせ、手を引いて海に走る。
なんかもう、駄目じゃ。聞いとるこっちが悲しくなってきた。

そんな思いを隠して勢いよく海に足を踏み入れれば、



「 つめたい、」



飛沫が日射しに反射してキラキラ光る。眩しさに目を細めれば、あの日の笑顔を思い出す。


芽衣子が、俺の特別になる気がした。










「足の間砂まみれになっちゃった」

「なったのう」

「せっかくタオル買ったのにね」

「芽衣子は拭けばなんとかなるからええじゃろ、俺なんて裾まくっただけじゃからびっしょびしょじゃ」


タオルやら何やら、ろくに準備もしないまま海に入ったせいで砂まみれになった足を座り込みながら拭いていると、まーくんがそんなことを言った。
…わあ、膝までびっしょりじゃん。気持ち悪そう。


「…あ、気持ち悪いで思い出したんだけど」

「え、なんいきなり。俺気持ち悪いなんて言っとらんけど、いや足なら気持ち悪いけど、え、俺が気持ち悪いん?」

「あのね」

「こういう時はほんっと話聞かんな」

「昨日まーくんの上履き履いたのわたしだよ」


ごめんね。

何かひとりで言い続けるまーくんを無視して言えば、一瞬目を丸くしてまーくんも座り込んだ。


「さっき言ったじゃん、上履きなくなってたって」

「うん」

「売店に新しいやつ買いに行く時に履かせてもらった」

「ああ、なるほど」


納得したらしいまーくんにタオルを渡せば、いそいそと足の間の砂を払う。

濡れたのは足と上半身少しだから大丈夫だろうけど、海の近くは風も冷たいし早く乾いてくれるといいな。まーくんはわたしほどじゃないけど寒いのもそれなりに苦手だし。


「…え、それで何なんじゃ、俺気持ち悪いんか」

「…え、どういうこと」

「いや、芽衣子さっき『気持ち悪いで思い出したんだけど』って言っとったし」

「ああいや、まーくんの足見て、ズボン張り付いてるの気持ち悪いだろうなって思ったから」

「…変なとこから会話始めんのやめんしゃい」

「ごめん」

「ん」


腹減ったけ、そろそろ飯食お。
その言葉に立ち上がったわたしとまーくんは、クラスメイトでもなく、マネージャーと部員でもなく。


あの日お花畑で約束を交わした時と同じ、ただのいとこでしかなかった。



  


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