柳くんの体操服は、想像の何倍もぶかぶかで、だぼだぼだった。


「あ。珍しいな芽衣子、今日体育出るんだ」

「……………」

「え、シカトかよ」

「…裏切り者め」

「はあ?」


そろそろ準備運動が終わった頃かな、とタイミングを見て体育館に入れば、ドアのすぐ横のところに座ってたブン太が声をかけてきた。
……わたしはあんたが柳くんに告げ口したことを忘れないよ。


「つかジャージすげーでかくね?それ自分の?」

「…違う。忘れたからサボろうとしたら渡された」

「誰に」

「……柳くん」

「え、なんで柳?」

「…廊下歩いてたら会って、貸してやるから出ろって」

「ふーん」


胸の部分に施された“柳”の刺繍を見たブン太が、ガムを噛みながら言った。
…座んねーの?じゃないよ。出なきゃ幸村に報告されちゃうんだよ。


「先生は?」

「さあ、わかんねーけど」

「…先生、探してくる」

「いてら」


ひらひらと手を振りながらガムを膨らましたブン太を一瞥して、辺りをきょろきょろ見回しながら歩く。
……ああもう、まくってもまくっても袖が落ちてくる。だからってだらんと下げてたらそれはそれで邪魔だし、どうしろっていうんだろう。ハーパンも変な丈だし。


「おや谷岡さん」

「あ、柳生くん」

「今来たのですか?」

「うん」


先生を探しながら歩いているわたしに、柳生くんが声をかけてきた。
そうだ、柳生くんに聞こう。


「先生は?」

「どうやら熱があったそうで、つい先ほど出て行きましたよ。今日は自習になりました」

「…え、マジで」

「ええ。相当無理をなさっていたようですよ」


運が良いんだか悪いんだか…っていうかブン太なんで教えてくれなかったの。
先生が出て行く時携帯いじったりトイレ行ったりしてたのかな。


「…せっかく来たのに欠席か」

「いえ、名簿はここに」

「…え、なんで?」

「もし遅れてきた方がいたらチェックをして、授業終了後職員室に持っていくよう先生に頼まれまして」


ああなるほど。
まあ柳生くんなら真面目だし大丈夫だろうってことで先生が託したんだろうな。


「出席に丸をしておきました」

「…遅刻じゃなくて?」

「はい、出席です」


A組、B組の名簿をわたしに見せた柳生くんが、内緒ですよ、と笑う。
………やばい。今ちょっとときめいた。風紀委員がそれでいいのかって一瞬思ったけど、そんなのどうでも良くなっちゃう程度にはときめいた。


「時に谷岡さん」

「はい、なんでしょう」

「それは柳くんの体操着ですか?」

「…うん。体操服丸々忘れて、どうしようって思って廊下歩いてたら遭遇した。貸してやるからちゃんと出ろって」

「ああ、そうでしたか」


サボろうと思って、っていうのは流石に言えなかった。怒られるとかは思わないけど、なんか申し訳ない。

……あれ、っていうか、


「…まーくんは?」

「先ほどどこかに行きましたよ。飲み物でも買いに行ったのではないですか?」

「そっか」


そりゃブン太の横にいなければすぐに寄っても来ないわけだ。
そう思いながら携帯を開いて時刻を確認すれば、授業が始まってまだ15分。
………少し早いけど、4限だしね。


「それでは、柳生くん」

「どこかに行かれるのですか?」

「うん、屋上行く」


ポケットにしまってある更衣室のロッカーの鍵をカチャリを鳴らし、苦笑する柳生くんに背を向ける。
飲み物買ってから屋上行こうっていう計画が崩れたのはアレだったけど、うん、結果的にはラッキーなことになったしね。お財布も持ってるし。
とりあえず飲み物とお昼買って更衣室行って、着替えてから屋上に行こう。


「柳生くん」

「はい?」

「出席に丸してくれてありがとう」


わたしが屋上行ったことも、先生には内緒にしてね。
最後に一度振り返ったわたしは、柳生くんにそう笑って体育館を後にした。



  


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