「さっき真田となに話しとったん」
学校からの帰り道。
私たち以外誰もいない静かな空間で、まーくんがそう問いかけてきた。
「部室戻る前に真田となんか話しとったじゃろ」
「…ないしょ」
「なんで」
「ちょっと恥ずかしい話だから」
恥ずかしい話?
そう聞き返してきたまーくんに「うん」とだけ言って、長く伸びた2つの影を眺める。
いつもなら夕飯を作り始めてる時間帯。
今日から私は、その時間をまーくんとともに歩くことになった。
「ねえまーくん」
「ん?」
「今度自転車買いに行こう」
「……チャリ?」
「うん」
これからは私も朝練参加しなきゃいけないし、帰りだってさっさと帰りたいし、食料品買いに行く時だってさくっと済ませたいしうんたらかんたら。
いくつかの理由を挙げれば、あー、と声を上げるまーくん。
「ニケツすれば行き帰り早いしのう」
「そうそう」
「…いや、芽衣子ちゃん」
「ん?」
「一緒に登校しとるところとか見られてもええんか」
「え、ほかの部活もテニス部みたいに7時から朝練とかやってるの」
「いややっとらんけど」
「なら大丈夫じゃん」
それにもう、誰に対していとこってことを隠してるのか自分自身よくわからなくなってきた。
いっそのこと普通にまーくんって呼んでもいいんじゃないかな。たまに“仁王”ってすんなり呼べない時とかあるんだよ。
「ってことで、今度の日曜は自転車を見に行こう」
「ん」
「ちゃんと見てよね、運転するのまーくんなんだから」
「え、俺なんか」
「え、そりゃそうでしょ」
まさか自分は後ろ座って女である私に運転させる気だったのか。
白々しくも「ひどい」なんて言いながら口元に手を当てれば、軽くおでこを叩かれた。
「週1」
「…ん?」
「週に1回は芽衣子がこぎんしゃい」
「え」
なにそれなんで、嫌だよ。
突然の言葉に顔をしかめれば、まーくんがあやしく笑った。