「話すたびに思ってたんだけど」
「はい」
「日吉くんって髪すごい綺麗だよね」
あれからおよそ10分。
隣の部屋で本を読んでいたらしく、うるさいと文句を言いにきた日吉くんも(私の独断により)連行し、コンビニに向かうテニス部一行。と、私。
ジローくんは声をかけようとしたけど寝てたみたいなのでやめました。
ジャッカルくんと柳生くんは2人で楽しそうに話してたみたいだから、柳くんがそっとしとこうと思って声かけなかったんだって。正しい判断だと思う。
「突然何の話ですか」
「いや、氷帝の人ってみんな髪の毛綺麗だなって思って」
「柳さんとかも綺麗じゃないですか」
「柳くんレベルだともはや髪綺麗とか当たり前じゃない?」
「……お前は一体俺を何だと思っているんだ?」
「完璧でちょっとお茶目なお父さん」
「……………」
え、何で黙るの柳くん。この前わたしのこと娘って言ってたじゃん。
そう思いながら隣を歩く柳くんを見上げれば、何だか複雑そうな顔をしながら頭を撫でられた。
「宍戸くんも髪綺麗とか意外だった。びっくりしたよ」
「あの人はもともと氷帝のキューティクル担当ですよ」
「え、そうなの」
「というか、そういう方面はまず跡部さんじゃないんですか?」
「跡部くんとか言わずもがな」
「まあそうですけど」
「すごいね氷帝って」
「谷岡さんは氷帝を何だと思ってるんですか?」
だってさ、だってさ。
うちで髪綺麗だよって声を大にして言えるのって、柳くんと幸村と柳生くんくらいじゃん。
真田くんはいつも帽子被ってるからよくわかんないけど、ブン太とまーくんは染めてるから傷んでるし。切原くんもなぜか傷んでたし。
「芽衣子、もうコンビニ着くよ」
「あ、うん」
私も日吉くんみたいに髪綺麗になりたいな、なんて思ってたら前方を歩く幸村の声がして、待ちきれなくなった私はわずかに走る。
そういえば幸村ってレアチーズ味とか好きそうだけど、日吉くんって何食べるのかな。
柳くんと真田くんは何となく抹茶とか食べそうだけど、日吉くんも抹茶かな。あるいはバニラの可能性もある。
「ん、芽衣子後ろの方いたん」
「うん、日吉くんと柳くんと髪の毛の話してた」
「俺の髪が綺麗って?」
「まーくん以外はみんな綺麗だねって」
「ひど」
「嘘です」
ほっぺをつついてくるまーくんを見上げてしばし考える。
………昔はソーダ系を、よく食べてた気がするけれど。
「まーくんはどう思う?」
「なんが?」
「さっき脳内でみんなの食べるアイス予想してた」
「あー」
なんかのう。
わたしのほっぺをつついていた手をポケットにしまい、まーくんが空を仰ぐ。
「ブンはチョコで赤也はソーダじゃな」
「私もそう思ってた。宍戸くんもソーダ食べそうじゃない?」
「日吉は?」
「抹茶かバニラかと思ったけど、レモンとかの可能性も否定できない。けど甘々系は絶対食べないと思う」
「忍足と向日は……思いつかんな。忍足は甘いもん得意そうなイメージないけど」
「忍足くんは…絶妙なバランス的なアレでチョコミントとか食べそう。がっくんは意外や意外で想像つかない。強いて言うならオレンジとかかな」
さて、この予想の何割が当たっているのでしょうか。
みんなの食べるアイスよく見とこう。
「あ、柳さん、コンビニってアレっすか?」
「ああ」
「赤也走るんじゃないぞ」
「走んないっすよ!」
「アイスー!!」
「丸井ー!!!」
真田くんが注意したばかりだというのに走り出したブン太と、それを追うように走る切原くんと、まーくんと、私。
後ろからは真田くんの大声と柳くんのため息と幸村の笑い声が聞こえた気がしたけど、それすらも楽しく感じた。
「…芽衣子って、落ち着いて見えて案外ああいうタイプだよな」
「馬鹿ってことですか」
「こら日吉、事実とはいえそない正直に言ったらあかん」
「谷岡は見かけによらないんだよな」
「それは仁王も一緒や」
「いや、あいつら身内じゃん?」
「見かけによらず、っていうのも血なんですかね」
「血だろうな」
「ま、仲良えのはええことや」
「…うちのペットが氷帝に好き勝手言われているが良いのか、精市」
「別に間違ってること言ってないし良いんじゃない?」
「…確かに、谷岡は見た目に反してアレだからな」
「……何はともあれ、元気になったようで一安心だ」
「うん、そうだね」