夕飯も食べ終わった自由時間。
昨日の反省を活かして今日はさっさとシャワーを浴びよう、と思い実行した私が洗面所のドアを開ければ、
「あっ、先輩!」
「あれ、切原くん。覗き?」
「いや、普通に違いますよ!先輩どこにいるか聞いたら、柳さんが部屋じゃないかって言ってたんで」
私の天使がベッドに寝転がってた。
かと思えばごろんとこっち向いてにこにこしてるし、何の用かは知らないけど私を待っていたらしい。本当にかわいい子だ。
「どうしたの?」
「10分くらいのとこにコンビニあるらしいんすよ。アイス買いに行きません?」
風呂上がりに食いたくなっちゃって。
そう言って立ち上がった切原くんは私と違って温泉に入ってきたのだろう、ほんのりとシャンプーの香りがする。
そっかそっか、お風呂上がりだもんね、アイスも食べたくなるよね。
「うん、じゃあ行こっか」
そう言えば切原くんは私の手をぐいぐいと引いて、食堂の方に駆けて行く。
え、外行くんじゃないの。っていうかちゃんと前見ないと転けるよ、そして今ならもれなく手を掴まれてる私も道連れに、…あっ。
「おわっ!」
「わ、びっくりした。赤也か」
「す、すいません部長!」
「暗くなってからは走り回るなと言っただろう!」
「落ち着け弦一郎」
もう目の前が食堂というところで、中から出てきた幸村にぶつかった。もう、ちゃんと前見ないから。
けどまあ柳くんのおかげで怒られずに済んだし、良かったね切原くん。
「そんなに急いでどこ行くの?」
「コンビニにアイス買いに行くの」
「早速か」
「早速っす!」
「いいなあアイス、俺も食べたい」
先輩たちも誘おうと思って来たんすよ、と言う切原くんの顔は楽しそう。本当先輩っ子だなー。
「柳くんたちも行こうよ」
「同行させてもらうか、弦一郎」
「うむ」
っていうか、立海だけじゃなくて氷帝も誘った方がいいんじゃないの。
そう思って食堂の中をのぞけば、跡部くんと樺地くんの姿。
「何だ芽衣子、どうした?」
「コンビニ行くんだけど跡部くんたちも行く?」
「いや、俺様は風呂に行くから遠慮しておく。行くなら1人はやめとけよ、夜道は危険だから絶対に誰かと一緒に行くようにな」
「うん、わかった」
食堂の扉をパタンと閉じ、「行かないって」と伝えれば歩き出す4人。
もしかして跡部くんもなかなかに過保護なのかな。
…っていうか、まーくんとかブン太は…確実に誘った方がいいだろうな。むしろ誘わなきゃ後で怒られる。
「私は氷帝の人たちに声かけてくるから、みんなお財布とか取ってきなよ」
「うん、頼むよ」
「はーい」
歩いて行った幸村たちを見送って、とりあえずここから一番近い宍戸くんたちの部屋に向かう。
みんないるといいけ、
「ああああああ!てめッ…甲羅ぶつけんなよ向日!」
「お前がよそ見してんのが悪いんだろばーか!もう一回言ってやる、ばーか!」
「あああもうお前らうるせえ!こっちは漫画読んでんだからもうちょっと静かにしろ!」
「し、宍戸さん落ち着いてください!」
「そんなんやから俺も困っとんねん」
「まあ跡部じゃしな…突っ込みはどこも苦労するのう」
「いや、なんかもっともらしいこと言っとるけど自分ツッコミとちゃうやん」
「ジャッカル見てればわかるんじゃ。苦労すんのはごめんじゃし、俺はああはなりとうないと常々思っとる」
何だこれ。
騒がしい人たちがいると思ったら深刻そうな顔で話してる人もいるし…っていうかとにかくうるさ、「あ、芽衣子だ」
「…どうも」
ドア開けなければ良かったかも。
そんな若干の後悔を抱きながら扉を閉めかけた時、思いっ切り目の合ったがっくんに呼ばれた。
「ん、どうしたんじゃ芽衣子、俺が恋しくなったか」
「…いや、切原くんがアイス買いに行くって言ってて、「アイス!?」
「………食いつき早いね」
流石ブン太。
コントローラーを放り出して勢い良く駆けてきたかと思えば、部屋を出て行ってしまった。お財布取りに行ったのかな。
「じゃあ行く人手ぇ挙げて」
「行く行くッ!」
元気だなあがっくん。ちょっと方向性は違うしがっくんの方が人懐っこいけど、ブン太と似てる。
「えーと…鳳くんとまーくん以外ね」
「アイスとか最近食ってへんなあ」
「お風呂上がりだから食べたくなっちゃうよね」
「え、芽衣子行くん」
「行くよ、アイス食べたいし」
「じゃあ行く」
…まーくんはあれだな。本当私っ子だな。
そう思いながら苦笑すれば、目の合った忍足くんも同じように苦笑していた。