あ、そういえばわたしも跡部くんと柳くんに話があったんだった。
そう思いながら、
「跡部くんっ」
去って行く彼を呼び止め、こっちこっちと手招きをする。
すぐに戻ってきてくれたところを見ると、特になにか急いでいるということもないらしい。
「なんだ?」
「今更なんだけど、2人にちょっと確認したいことがあって」
確認したいこと?
そう不思議そうな顔をする跡部くんに「うん」と言って再び口を開く。
「わたしの行動順序というか、流れ的なものなんだけど」
「ああ」
「わたし、朝起きたらまずみんなのドリンクを作って、ユニフォーム畳んで、各部屋に置きに行ってるんだ」
まあ立海の場合部屋割とか関係なく別の部屋で寝てることも多いから、わたしの部屋にまとめて置いてあるんだけど。
そう内心苦笑しながら柳くんを見れば、「ああ」と彼が呟いた。
「で、朝ご飯食べたらみんなストレッチして外周行くじゃん。だからその間に帰ってきた時に渡すタオルの用意とボールを運んで、戻ってきたらみんなにタオルとか渡してるのね」
「おう」
「で、受け取ったらすぐにタオル洗って次のドリンク用意して、洗ったタオル干してる間にボール拾いに行ったり…とかって感じなんだけど、どうですかね」
基本的に先々のことを考えて行動するようにしてるんだけど、それでもたまにこうやって、手の空く時間というものができてしまう。
本当ならこの時間になにかできることがあったり、もっとみんながやりやすいようにできるんじゃないかなって思うんだけど、どこが無駄で、どう直したら良いかな。
そんなことを交えて言えば、跡部くんと柳くんが目を丸くした。
「…谷岡、そこまでやっていたのか」
「え、うん、してたけど。どこ直したらいいかな」
「バーカ。今のままで問題ねえよ」
「え、そうなの」
でもさ、わたしはこんな風にみんなと仲良くお喋りするために来たわけじゃないし。
もっとみんなのためにできることがあるなら、やってあげたいんだけどな。
「効率的に動けている。手の空く時間はそのおかげでできているのだから、気にすることはないさ」
「…じゃあこういう時間にやれることはないってこと?」
わずかに眉間に皺を寄せて言えば、柳くんが苦笑しながらわたしの頭を撫でる。
そしてどうしたのかと今度は跡部くんに目を向ければ、
パシッ
「いっ、」
「うわ、なにするんじゃ跡部」
突然、おでこを軽く叩かれた。
…いや別に痛くないけど。だからまーくんも、そんなにわたしのことぎゅうってしなくてもいいけど。
「なにいきなり、」
「お前、そんなんだから周りに心配かけんだよ」
「………」
そんなんだからっていうのはよくわからないけど、ちょっと、ショックだった。
みんなが心配してくれてるのはありがたいけど、わたしはそんなの望んでないっていうのに。
それでもやっぱりわたしは、無意識にみんなに心配をかけるような行動をしてしまっているのだろうか。
「お前の頑張りでこういう時間が生まれてるって柳も言っただろ」
「…言った」
「なにかやりたいことがあるっつーんなら、こういう手の空いた時間を全力で休め。それがお前にできる唯一のことだ」
そう言ってくしゃりとわたしの髪を撫でた跡部くんは、小さく笑って踵を返す。
…えっと、つまり。
「文句の付けどころがないほどによくやってくれている、ということだ」
「…やっぱり、そういうことなのかな」
「そういうことだ」
お前は今のままでいい、ただもう少し休むということを知ってくれ。
言いながらわたしの頭を撫でた柳くんだけど、本当にここ最近のわたしは良く頭を撫でられる。みんなよりも小さいから撫でやすいのかな。
「それに、芽衣子はなんもせんでも、ここにおるだけで貢献しとるよ」
「どういうこと?」
「俺のやる気が10%アップじゃ」
「……なにそれ」
しかも10%って一割じゃん、大してアップしてないよそれ。
そう思いながらもまーくんの髪を優しく撫でれば、みんながわたしの頭を撫でる理由が、少しだけわかった気がした。