「谷岡さん」
「あ、日吉くん」
「休憩ですか」
「ううん、午後に使う分のタオル畳むところ」
「隣いいですか」
「あ、うん。どうぞ」
今日のお昼ご飯は何だろう。
そんなことを考えながら、タオルを手にベンチに座ってみんなを見ていると、どこからともなく日吉くんが現れた。
「朝目が覚めたら谷岡さんがいて驚きました」
「ああ、部屋に?」
「はい。まさか谷岡さんの部屋で寝てしまったとは思わなかったので。すいません」
今朝、薬とか日焼け止めとか取りに自分の部屋に行ったタイミングで起きた日吉くんを思い出す。すごいびっくりしてたなあ。
「いいよいいよ。むしろごめん、みんな疲れてたところ来てくれたのに悠長にシャワー浴びてて」
「いえ、何時頃に行くか言ってなかった俺たちも俺たちですから」
「あ、今携帯持ってるなら登録しといていいよ。で、日吉くんからみんなに教えて」
「じゃあちょっと待っててください。取ってきます」
とってきますってことは、今手元にはなかったのか。
そう思いながら日吉くんが駆けて行った方を見れば、少し離れた場所に置かれていた袋を開ける彼。あの中にみんなの貴重品とかまとめてるのかな。
……っていうか寝る場所のことですっかり頭から消えてたけど、あの時起きて私の部屋にいた跡部くんや忍足くんに教えておけば良かったんじゃ。
そんなことを思った時、ちょうど6つ目のタオルを畳み終えた。
「すいません、お待たせしました」
「あ、はい」
おかえり。
そう言ってポケットから出した携帯を日吉くんに手渡し、「登録しといて」とだけ伝える。
「…そういえば、谷岡さん昨日どこで寝たんですか?」
「忍足くんたちの隣の部屋だよ」
「そこ空いてたんですか?」
「うん、もともと私が使ってもいいって言われてたところだから。私、今の部屋とその部屋のどっち使っても良かったの」
「立海の人たちがいるから今の部屋にしたんですよね」
「ううん、その部屋幽霊出るって噂があるって柳くんから聞いて、「何でそんな面白そうなこと教えてくれなかったんですか」
「え、えええ…」
そんなこと言われても。
とは思うも日吉くんのものすごい剣幕にそんなこと言えるわけもなく、ただ「ごめん」と謝罪しておいた。
「…でも谷岡さん、そういうの苦手ですよね。なのにどうしてその部屋に?」
「いや、みんなすごい気持ち良さそうに寝てたから起こすのも可哀相だし、じゃあどこで寝るかってなって。私すごい嫌がったんだけど、本当に幽霊が出るのか確かめに行こうって幸村が、「だから、何でそういう面白そうなことの時に俺を起こしてくれないんですか!」
「ご、ごめん」
「…いえ、俺こそすみません」
本当に幽霊とかそっち系好きなんだな、いや私だって映画や話を聞く分には好きだけども。
そう思いながら日吉くんを見れば、とてつもなく目を輝かせていた。…このままじゃ、今夜行くな。
「ちなみにだけど、幽霊がどうとかっていうのは柳くんの嘘だよ」
「チッ…」
え、舌打ちした。この子今確実に、絶対に舌打ちした。
「残念だね、実際怖いこと何も起きなかったよ」
「…そうですか」
わあ、見るからに落胆してる。
ここまでわかりやすい人もそうそういないよな、と思いながらタオルを畳む手を休めずにいると、
「…俺、練習戻ります」
「ああ、はい。頑張って」
「はい」
タオルを持ったまま手をひらひらと振って、歩いていく日吉くんを見送る。
…次話す時に時間があれば、私のとっておきの怖い話でも話してあげようかな。私に彼を怖がらせられるだけの話術があるとは思えないけど。
そんなことを思いながら最後のタオルを畳み終わり、所定の位置に置いた時のこと。
「…あ、」
わずかに離れたところに立つ柳生くんに気付き眺めていると、彼が大きなあくびをした。
まーくんだけじゃなくて柳生くんまで、みんな寝不足なのかな。
それにしても、
「…珍しい」
柳生くんがあくびをするだなんて。
そう思って携帯の時刻を確認した私は、彼のもとへと歩みを進めた。