「ねむいぜよー……」
「………仁王くん、いい加減にしてください」
あ、また柳生くんに怒られてる。
合宿も4日目。今日9回目のあくびをしたまーくんを見つめるわたしは、ただいまタオルとドリンクの配布中。
「ん?」
「あっ、すいません」
ころころと転がってきたボールを拾い上げれば、鳳くんが走ってきた。
…初日も思ったけど本当背高いな。
「はい」
「ありがとうございます」
「谷岡、タオルくれ」
鳳くんにボールを渡すと、ちょうど練習に区切りがついたらしい宍戸くんがやってきた。
わあ、2人ともすごい汗かいてる。お疲れ様だ。
「そういえば昨日悪かったな」
「いいよ、わたしちゃんと寝られたし」
「え、なにかあったんですか?」
なにも知らないらしい鳳くんは不思議そうな顔をして宍戸くんを見る。
あれ、2人とも同じ部屋なのに、特にそういう話してなかったんだ。
「宍戸くん、わたしの部屋で寝ちゃったんだよ」
「えっ!?」
「ちょっ変な言い方するな谷岡!」
わ、宍戸くん顔真っ赤。
かわいいなあ、うちにはこういう人いないからなんかすごい新鮮。
「…谷岡の連絡先聞こうってなって、もう寝てたお前と樺地以外で部屋に行ったんだよ。そしたらこいつシャワー浴びてて、待ってる間に寝ちまっただけだ」
「ああ、だから朝宍戸さんも向日先輩もいなかったんですね!」
「で、お前はちゃんと寝られたのか?」
「うん、まーくんと一緒に寝たから大丈夫だよ」
それまでの経緯を説明するのが面倒で結論だけ言えば、2人とも口をぽかんと開けた。
え、なに。どうしたの。
「………それで仁王はあんなに眠そうなんだな」
「は?」
「…少し可哀相ですね、仁王さん」
少し離れた場所で、あくび交じりにラリー練習をするまーくんを見る2人の眼差しは、まさしく同情そのものだった。
え、なんでまーくんがかわいそうなの。色々な経緯考えたら可哀相なのは明らかにわたしでしょ。
決して言う気は起きないけど、人様の部屋で1人1台ベッド使用するとか正気の沙汰じゃないよ。
なんて思ってたら、
「俺後で仁王に謝ってくるわ」
「え、なんでよ。確かに狭くて寝づらかったかもしれないけど」
「…無自覚か」
「そうみたいですね…」
「は?」
なに言ってんだろこの人たち。
わたしが目を覚ました時まーくんはちゃんと寝てたし、今だって柳生くんに怒られてはいるけどしっかり練習してるよ。
「そうだ谷岡、これ仁王に渡してくれ」
「なにこれ、飴?」
「おう。お前にやろうと思ってたけど、仁王にやるわ」
「え、なんでよ。わたしにくれればいいじゃん」
「駄目だ」
ええ、なんでなの宍戸くん。
まーくんにも申し訳ないとは思うけど、たぶん一番の被害者はわたしだよ。
「とにかく、それ仁王に渡しとけよな」
「…わかった」
「あ。あと、昨日聞きそびれたからあとで連絡先教えろよ」
「うん。わかった」
「じゃあ俺ら練習戻るわ。ほら、行くぞ長太郎」
「はいっ宍戸さん!」
ぺこっと頭を下げて、宍戸くんを追いかける鳳くん。
その姿に切原くんと柳くんの姿を重ねながら、わたしはまた歩き出した。