「…ね、え。本当に入るの?」
「ここまで来たんだし入ろーぜ」
わたしの部屋を出て10分弱。
ほとんどの部屋から電気が消え、月明かりだけが照らす薄暗い道は、どことなく不気味な雰囲気を漂わせている。
「……やだ…帰りたい、」
「ほら、置いてくよ」
ちょ、そんなためらいもなくドア開けて入っていかないでよッ。
あれかな、幸村って怖いものないのかな。ないんだろうな、幸村だし。
「暗いのう」
「電球が切れているからな」
「えっ」
「谷岡がこの部屋を使う場合は取り替えることになっていたんだ」
ああ、そういうことか。それにしてもこの暗さじゃ周りもろくに見えないよ。
どうしよ、わたし携帯充電器に指しっぱなしで来ちゃったのに。
パチンッ
「わ、あああああまーくんんん」
「うわっ何じゃ芽衣子」
「電気ついた、…ッ」
小さな音が聞こえた瞬間点いた、浴室の電気。
何これ、え、早速怪奇現象?
「俺が点けたんだよ」
「え、ブン太?今ブン太がやったの?」
「うん」
ブン太の手にあるものを見て納得した。ああ、DSで足元照らして浴室まで行ったんだ。
きょろきょろ周り見てたからDSの光に気付かなかったけど、よかった、本当に怖かった。
「…わ、かわいいねこの部屋」
「女の子っぽいね」
オレンジ色の光がぼんやりと照らす室内は幸村の言う通り女の子らしくて、思わずわたしの乙女レーダーが反応する。
壁紙花柄だし、覗いてみればバスタブは猫足だし。どうしよう、すごいきゅんきゅんくる。
「かわいいこの部屋、すごいかわいい」
「気に入ったか?」
「うん、怖いとかちょっとどうでもよくなり始めてる」
さっきまでの恐怖感はどこへやら、どうやらわたしは単純らしい。
でもそれくらいこの部屋はかわいくて、わたしの心をガンガン刺激してくる。
「じゃあこの部屋で寝ちまえば?」
「えっ」
「怖さなくなってきたんじゃろ?」
「え、ちょっと何でまーくんまで意地悪言ってくるの」
流石にそれは無理だよ、わたしまだ死にたくない。
そう思って必死に首を横に振ってると、柳くんの視線に気が付いた。
「ちなみに、この部屋に霊が出るというのは嘘だぞ」
「は?」
「お前を脅かすために言った嘘だ」
「なんだと…」
……どうしてわたしって、毎度毎度柳くんに裏切られるんだろう。
嘘を吐いた理由を聞けば、「幸村と仁王の機嫌を損ねないためだ」って。
部屋が少し遠いくらいで、幸村もまーくんも不機嫌にならないと思うんだけど。
「…じゃあ、がっくんと宍戸くんが聞いたのは?」
「恐らく気のせいだろう。慣れない場所で体が緊張してたんじゃないか?」
「でもそれで幻聴なんてあるのかな」
「一昨日の夜は風強かったからね」
幸村の言葉に思い出してみれば、確かに一昨日の夜は風がすごかった。
風の音は叫び声みたいに聞こえることもあるっていうし、2人が勘違いしたのはその類だったのか。
「…駄目、安心したら眠くなってきた」
「じゃあやはりここで寝るか?」
「…うん、そうしようかな」
嘘だってわかった途端、今日1日の疲れがどっと体に出てきた気がする。
ここ以外に寝られる場所なんてないし、あるとしてもまた立海の部屋の方に戻るのはとてもじゃないけど面倒くさい。
「うん、ここで寝る。ありがとみんな」
「よし、じゃあ寝よっか」
「え?」
いそいそとベッドに入る4人。ちょ、意味わかんないんだけど。
部屋に置かれたベッドは4台、今ここにいるのは、5人。ベットに入ったのは、わたし以外の4人。
「ま、また寝る場所なくなった」
「もう芽衣子が選べよ、俺やり合う気力ねえ…」
「……じゃあまーくん失礼するね」
「えっ」
1番近くのベッドに入ったまーくんのところにもぐりこむ。ああよかった、これで眠れる。
「ちょっと芽衣子どういうこと」
「だってブン太が選べって」
「何で仁王のところなの」
「すぐ近くだったし、明日だって練習あるわけじゃん」
「それは仁王だって一緒じゃん」
「まーくんとは数えきれないくらい一緒に寝たんだよ?まーくんだってそれなりに寝づらいだろうけど、慣れてる分3人よりはマシでしょ。ね、」
「いや、うん。そうじゃな」
「こう言ってることだし」
「そこは俺でしょ」
「もううるさい、眠いのわたしッ」
「静かにしなさい、隣は寝てるんだぞ」
え、何でわたしだけ怒られるの、幸村のばか。
そんな思いを抱きながらもすべての音を遮断するべく、シーツを被って目を閉じた。