「おはようございます」
「おお、来たか谷岡!」
慣れない道をまーくんとともに歩き、やっと着いた学校。
まーくんは学校に入った途端に「腹減った」と言って購買に行ってしまったけれど、こんなことになるならちゃんと朝ごはんを食べて欲しいものだ。
そんなことを考えながら、わたしの担任になるという先生に挨拶をする。
朝っぱら元気だな。
「慣れないことも多くて大変だろうが、力になるから何でも言ってくれよ」
「ありがとうございます」
「じゃあ行くか。HRの初めに紹介するぞ」
「はい」
人生初の転校だから少し緊張したけど、何か腑抜けた。
こんなにあっさりしてるものなのかとか、漫画とかTVとかで見てたのと変わんないんだ、とか。
うん、まあわたしにはまーくんがいるからなのかも、知れないけど。
「うちのクラスはみんないい奴だから、きっと楽しくなるぞー」
「…そうですか」
聞いたところによるとかなりクラスは多いみたいだし、まーくんとは違うクラスになるだろうな。
だとしたらせめて、柳くん(だっけ?あの日声かけてくれた人)がいるクラスがいいな。
わたしの数歩前を歩く担任の先生の背中を眺めながら、見慣れない校舎を進んでいった。
そんなやり取りをしたのが、20分程前。
「よし、じゃあ転校生を紹介するぞー」
「えっ転校生!?」
じゃ、ちょっとここで待っててな。
そう言って先生が教室に入っていってから早15分。どうやらわたしの担任は、話が長い人らしい。
「喜べ男子諸君、転校生は女子だ!」
「まじか!」
「やったぜ!」
「かわいい子だといいなー」
「残念だな石村」
「え?残念って…」
「転校生の女子はな…美人だ!」
「おおお!」
どうでもいい声が、扉を一枚隔てた教室の中から聞こえる。
いいからさっさと教室入れてくれないかな、なんて考えながら《3−B》と書かれた板を見上げて、「谷岡ーいいぞー」
………長かったな。
「…失礼しまーす」
開いた扉の向こう、教室の中をぐるりと見回して落胆する。
…やっぱり。そんな気はしてたけど、まーくんもいなければ、柳くんもいない。
「…谷岡芽衣子です。これからよろしくお願いします」
早々に打ち砕かれた願望に、笑顔を見せられるわけもなく淡々と最低限の挨拶を済ませれば、お決まりのぱちぱちという拍手が聞こえた。
はあ、憂鬱だな。仕方ないけど、わたし一人に集中する視線が痛い。
「じゃあ谷岡はあそこの席だからな」
「はい」
「丸井、色々教えてやってくれよー」
「ういー」
あそこ、と先生が示した席は、ドアに一番近い後ろの席。
……丸井くんっていうのか。まーくんにも引けをとらない派手派手な男の子だ。
「俺、丸井ブン太。シクヨロ」
「…う、ん。よろしく」
わたしが席につくと、左に座る丸井くんはニコっと笑ってそう言った。
あれ、案外いい人そう。こんなに髪真っ赤なのに、人は見かけによらないなあ。
「そんじゃお前ら、谷岡に色々教えてやるんだぞー。あとこれから始業式だからトイレとか済ませとけよー」
「はーい!」
「はーい」
そう言った先生が出て行くと同時に、HR終了を告げるチャイムが鳴る。
わたしの席の周りにわっと集まってきたたくさんの顔を見て、心の底からため息を吐いた。