みんなに言いたい。聞いてほしい。
そんな思いで駆けるわたしは、たぶん少し、笑っているのだと思う。
「あの、ちょっと聞いてッ」
お昼の休憩を終え、ストレッチをしているみんなは、何事かとわたしを眺める。
そしてわたしは、うずうずする気持ちを抑えることもできなくて。
「跡部くんと、仲直りしたっ」
息を切らしながらも言えば、わたしを見るみんなが目を丸くして動きを止める。
わ、なんか時間が止まったみたい。おもしろ、「はあ?いつだよ!」
「え、今さっき。食堂出てから」
「部屋に戻ったんじゃなかったのか」
「ああ、あれ嘘。洗濯しに行ってた。そしたら跡部くん来た」
「芽衣子やっぱ嘘吐いとった!」
ブン太が叫んで、柳くんが眉間に皺を寄せて、まーくんがちょっと怒ったような顔をしながら言った。
ああもう、無理したわけでもなんでもないんだからいいじゃん別に。むしろ時間の有効活用だと評価してほしいよ。
「そんなの今はどうでもいいの。とにかく、跡部くんの方から謝ってくれて、仲直りしたよ」
洗濯もの干すのも手伝ってくれたし、良い奴だった。
ちょこっとだけ柳くんとジローくんの真似をして、言ってみる。
「良かったね、仲直りできて」
「うん、良かった」
「チョコのお礼はちゃんと言った?」
「……!」
そうだ、すっかり忘れてたけど、チョコくれてたんだった。
幸村くんの言葉にハッと思い出したわたしはそのまま踵を返して、
「お礼言いに行ってくるッ」
「うん、行ってらっしゃい」
そう言って、氷帝の人たちがいる方へと駆けて行った。
「跡部くんッ」
「アーン?」
立海のみんながいる場所から離れること数メートル、氷帝の人たちがストレッチをしている中飛び込んでいく。
そういえば跡部くんの「アーン?」久々に聞いた気が……あああ違う、そんなこと考えてる場合じゃないっ。
「あの、チョコありがとっ」
「…は?」
「跡部くんがくれたチョコ、すごくおいしかった。ありがとね」
「待て、なんのことだ?」
ぺこっと頭を下げて立海の方に戻ろうとしていたわたしを、跡部くんの声が引き止めた。
なんのことって、
「いや、チョコくれたでしょ。跡部くんからの差し入れだって幸村くんからもらったよ」
「俺はそんなことしてねえぞ」
「え、うそ」
「嘘じゃねえ。むしろ嘘吐いてんのは幸村じゃねえのか」
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なにがどうなってるんだ。そう思いながら不意に立海の方を振り返れば、
「……!」
幸村くん、めっちゃ笑ってる!
そうか、そういうことか、わかったぞ。
幸村くんは跡部くんからの差し入れだと嘘を吐いて、話すきっかけを作ろうとしてくれたんだ。
いや、それは普通にありがたいけどさ。それならそれでさっきの時点で止めてよッ!
「……ごめん、お邪魔しましたッ」
幸村くんのばか、ばか、ばか。
そんな思いに駆られたわたしは再び踵を返して立海の方に向かうけど、
「…元気やなあ」
そんな忍足くんの声は、わたしには届かない。
「おい幸村!」
「うわ、びっくりした。おかえり」
俺のこと呼び捨てするの久しぶりだね、なんて笑う幸村くん。いや、もうあんたなんて呼び捨てでいい。幸村でいいッ。
「おかえりじゃないしそもそも行ってらっしゃいじゃないよ、チョコくれたの跡部くんじゃないじゃん、わたしすごい恥ずかしかったんだけどッ」
「いやだな、跡部と仲直りするきっかけ作ってあげたんじゃん」
「だから『行ってらっしゃい』じゃおかしいって言ってんでしょッ、こっち見てめっちゃ笑ってたじゃん!」
からかうのも大概にしろ!
そんな思いで彼のほっぺをぎゅうっと引っ張れば、痛がるどころか楽しそうに笑われた。