「…おっも、」


今日2度目のボール運び。転がってたボールを拾いながらやってたこともあって、腰と手の平がめちゃくちゃ痛い。
駄目だ、いったん置こう。気休めにしかならないだろうけど、ジャージの裾伸ばして萌え袖にして持と、「あ、谷岡さんだ」


「…あ、幸村くんだ」

「なんで変な体勢してるの?」


なにか汚いものを見るような目で幸村くんが言う。
まったく失礼な人だな、腰が痛くてかがみながら手を見てたタイミングで君が来ただけだよ。


「ボール運び?」

「うん。量多いから二の腕痩せるかも」

「それはよかったね」


じゃあこれは食べないほうがいいかな。
そう言って幸村くんは、金色の紙に包まれた小さいものをポケットから取り出した。きらきらしててかわいいんだけど。なんだそれは。


「それなに?」

「チョコ」

「…いいな、」

「二の腕は?」

「あとでもう一回運ぶ」

「ふふ、じゃああげる」


ちょうど甘いものほしかったんだよね。幸村くんって神の子って言われてるらしいけど(ブン太情報)、いまこのタイミングでチョコとかもはや神。
いままで幾度となく魔王って思ってごめん。

包みをはがして口に入れれば、ほどほどの甘さが広がっていく。わー、おいしいなこれ。


「あ、そうそう。ちなみにそれ跡部からの差し入れだからね」

「…は、」

「1人1個渡されたんだよ」

「……ごめん、半分こすればよかったね」


こんなおいしいチョコなのに奪っちゃったよ。
でも幸村くんはなんで食べなかったんだろう、甘いもの嫌いなのかな。それとも気分じゃなかったのか。


「俺食べたよ」

「じゃあなにこれ、誰かから強奪したの?」

「ふざけんなよ。跡部からお前に渡せって言われたんだ」

「…は?」


…いや、ないない。それは下手な嘘だよ幸村くん。あ、わかった。真田くんのとってきたんでしょ。


「ちなみに真田から奪ったりしてないからね」

「……ほんとに、跡部くんが?」

「うん」


そんな、(たぶん)わたしめっちゃ嫌われてるのに、跡部くんもずいぶんと気まぐれな人らしい。
ぐるぐる考えてると、幸村くんの手がわたしの頭に伸びた。


「あとでちゃんとお礼言うんだよ」

「…うん」

「じゃ、俺練習戻るから」


そう言ってきびすを返す幸村くんに、ふと疑問を抱く。もしかして幸村くん、これ渡すためだけにわざわざ来てくれたの?


「…がんばろ」


ありがとう、幸村くん。
言いそびれたお礼とチョコの甘さに、再び二の腕へ鞭を打った。



  


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