ていうか、迷惑かけたくないからって黙ってたわたしにも問題はあったわけだよね。
察してくれなんて思っちゃいないけど、言わなきゃ何事もわからない。だから跡部くんも、あんなことを言ったのかもしれない。

でも本当にわたしが不真面目に見えたのかもしれないから、今日はちゃんと、頑張ろう。
昨日も頑張ったけど、きつい時はみんなの手を借りてでも更に頑張ろう。

そう心に決めて昨日よりははるかに痛みの減ったお腹を撫でた時、高らかな笛の音が聞こえた。どうやらミニゲームが終わったらしい。


「お疲れブン太、タオルとドリンクね」

「おう、サンキュ」

「芽衣子ちゃん芽衣子ちゃん!」

「あ、ジローくんおつか、」


れ、と続けようとした時、わたしの手首を掴んでジローくんが歩き出した。
ちょ、え、どうしたの。そう聞く間もなく振り返ったジローくんは、


「あのさ、芽衣子ちゃん」

「?」

「あの後跡部と話した?」


まさかこのタイミングでジローくんから聞くとは思いもしなかった人物の名前に、思わず目を見開いた。
そうか。きっとわたしが気付かなかっただけで、あの時コートにはたくさんの人がいたんだ。
そう思うと途端に気まずさがにじみ出てきて、わたしはついうつむいてしまう。


「話して ない、けど」

「やっぱりかー」

「なんでジローくんが、」


そんなこと気にするの、と言いかけて飲み込んだ。
もしわたしがジローくんだったら、きっと同じことをするだろうと思ったから。言えなかった。


「別に跡部は芽衣子ちゃんのことが嫌いなんじゃなくてね、本当にテニスが大好きなんだよ」

「…うん」

「芽衣子ちゃんはきっと痛くて悲しかったと思うけど、跡部ってすごい良い奴なんだ」

「…………」


柳くんも、跡部くんのことを悪い奴じゃないって言ってた。
でも申し訳ないけど、ジローくんがいくら跡部くんのことをかばってくれたって、わたしの傷が消えるわけじゃない。癒えるわけでもない。

これはわたしが跡部くんに言われたことなんだから。
跡部くんにしか、きっとわたしのこの気持ちを、傷を、どうにかすることはできないと思う。


「…言いたいことは、わかったよ」

「…ほんと?」

「うん。でも、ごめん。わたし、いくらジローくんが跡部くんは良い奴だって言っても、それでわかりましたって終わらせることはできない」

「…………」


はっきりと言い切れば、ジローくんは少し複雑そうな顔をした。
ごめんね、本当。気にかけてくれたのに。


「嫌いとか許さないって言ってるんじゃないよ。実感がないだけでジローくん的にすごく良い奴って情報はちゃんと頭に入れておくから、そこは心配しないで」

「本当に跡部のこと嫌いじゃない?」

「好きになるどころか嫌いになる要素しかなかったけど、ジローくんのおかげで、普通になった」

「そっか、良かった」


さっきも思ったことだけど、あんなことを言われるきっかけを作ったのはわたしなんだろうし。
そう思って小さく笑えば、ジローくんがまたわたしの手を引いた。


「戻ろっか、丸井くん心配そうな顔してるC」

「うん」


ザッザッザッ。
ブン太まであともう少しというところで立ち止まったジローくんは、もう一度振り返って、小さな声で。


「もし跡部から話しかけてきたら、できれば逃げないでやってね」


ジローくんって、きっとすごく跡部くんのこと好きなんだろうな。
ニッと笑ってブン太の方に駆けたジローくんを見て、なんとなく、そんなことを思った。



  


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