「芽衣子ーいるかー?」

「あ、がっくん」

「うわ、立海みんなおるやん」


夜ご飯も食べ終えた自由時間。
わたしの部屋のドアを開いたのは、氷帝のがっくんと、忍足くんと。


「おう谷岡、具合大丈夫か?」

「わ、宍戸くんだっ」


なぜかはわからないけど大好きな宍戸くん。
うわーうわー、宍戸くんだ。心配してきてくれたのか、優しい人だ。

あ、でもその前に。


「あの、2人ともごめんね」

「ん?」

「さっきはありがとう」


まず先に、がっくんと忍足くんにちゃんとお礼を言わないと。
そう思って立海の輪から抜けドアの方まで歩いていけば、忍足くんがわたしの頭に手を乗せる。


「…ん?」

「?」

「芽衣子ちゃん、平気なん?」

「なにが?」

「俺に撫でられとるの」


…………。


「平気かも、しれない」

「おお、良かったな侑士!」

「ここまで長かったわ…」

「たった2日じゃねーか」

「割と最初から慣れられとった宍戸には俺の気持ちなんかわからんわ!」


俺心閉ざしかけてんで!とか言いながら、忍足くんがわしゃわしゃわしゃわしゃ頭を撫でる。
わあ、髪の毛乾かしたばっかなのにぐっしゃぐしゃだろうな。でも自分が成長できたような気がして、ちょっと嬉しい。


「それ以上は有料じゃ」

「うわ、びっくりした…」

「気配消して来るなよ仁王!」

「別に消しとらんけど」

「有料ってなんや」

「芽衣子の頭一往復撫でるごとに500円なり」

「地味に高いやんッ」


背後から抱きついてきたまーくんが、わたしの肩に顎を乗せて言う。
本当こいつは……あれだな。問題が解決したと思ったらべたべたべたべたと。


「っていうか、3人ともどうしたの?」

「いや、具合どうかなーって思ってよ。風呂行くついでに寄ってみた」

「ああ、そうだったんだ。ありがと」


わたしの問いに答えたがっくんの手を見てみれば、そこには確かにタオルや着替えと思しき服が握られていた。
そっかそっか、わざわざ来てくれたんだ。


「具合悪いの気付いてやれなくて悪いな、明日はあんま無茶すんなよ」

「いやいやそんな、ありがとう」

「んじゃまたなー」


ひらひらと手を振ったがっくんが言ったと同時に、わたしたちに背を向けた3人が扉の向こうに消えた。
立海ほんま仲良えな、とかって声が聞こえる。


「忍足と普通に話せるようになったんだ」

「うん。午前中の時点ではまだたどたどしかったけど、泣いてる時に声かけてくれて」

「え、先輩泣いてたんすか?」

「…赤也、詮索しないでやれ」


幸村くんの言葉に返せば、別のところに引っ掛かったらしい切原くんを柳くんがたしなめた。
別に気にしなくても――…とは思うけど、そうか。まーくんもいるしな。


「忍足くんもがっくんも、良い人だった」

「そっか、良かったね」

「うん」


ぐしゃぐしゃになってる髪を直しながら、今日一日のことを思い返す。
色んなことあってつらい思いもしたけど、それでも良いこともたくさんあった一日だったな。


「…明日の目標は、まだまともに話せてない、日吉くんと樺地くんと話すこと」

「……谷岡、成長したな」

「…へへ」


眉尻を下げながら笑う柳くんが嬉しくて、わたしもつい笑う。
けどすぐ後ろのまーくんは少し不満げに「ふん」とか言ったから、なだめるように頭を撫でてあげた。



  


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