「しかし、無茶をするのは良くないな」
「すいません」
柳くんって、やっぱりお父さんみたいだな。
この時期には早すぎるどころか、むしろしまったばかりと言った方が正しいであろう毛布をわたしにかけた柳くんは、ベッドの横に立ちお説教タイム。
あの後、タイミングを見計らったかのように降り出した雨は、まるで我慢を続けた私の心を体現したかようだった。(通り雨だったみたいでもう止んでるけど)
屋内練習場のないこの場所では当然練習は中断せざるを得なくて、私たちは自分たちの部屋に戻ってきたわけなんだけど。
「なぜすぐに言わなかった」
「…みんなの邪魔に、なるから。サポートできなきゃ私がここに来た意味ないでしょ」
「んなこと言って、倒れたりしたら元も子もないだろ?」
「おっしゃる通りです」
ジャッカルくんの言葉に何か言い返せるわけもなく、頷いて体を起こす。
もう我慢しなくていいとわかったせいか、少しでも横になっていたせいか。どうしてかはわからないけど、
「起き上がって大丈夫なんすか?」
「大丈夫、もう痛くないから」
ずっと横になってるのもだるいし。
そう付け加えて言えば、わずかに安心したような表情を浮かべて切原くんが笑った。
「…っていうか、まーくんは?」
「今幸村たちに怒られてるぜ」
「…………」
幸村くんたちっていうのは、あれか。
今ここにいる、柳くんと切原くんと、ジャッカルくん以外の人のことを言ってるのか。
…かわいそうに、まーくん。多分もうちゃんと反省してるだろうに、まだ怒られてるのか。
「それにしても、お前って結構根性あるんだな」
「…ん?」
「ほら、俺ら男だからよくわかんねえけど…でも、すごい痛いんだろ?その…アレって」
「あー…まあ今回は結構きつかったけど。柳生くんが、私はやればできる子だって言ってたから」
「…お前にとって柳生は神様なのか?」
呆れたように言う柳くんは、「うかつに元気づけることもできないな」と苦笑する。
別に私だって何に関しても頑張るわけじゃ、「芽衣子っ」
「うわ、っ」
バン、と大きな音を立ててドアが開いたかと思えば、今にも泣きそうな顔をしたまーくんが抱きついてきた。
幸村くんたちも部屋に入ってきたし、とりあえずまーくんのお説教タイムも終わったらしい。ていうか狭い。
「…仁王、」
「あー…大丈夫、ありがと柳くん」
私にしがみついてきたまーくんの肩に手を乗せ、たしなめるように柳くんが呼ぶ。
でもね、きっとすごい怒られたんだろうからね。これくらい良いよ全然。
「もう痛くない?」
「うん、大丈夫」
「嘘?」
「ほんと」
そう言えばまーくんは安心したように笑って、よしよしと頭を撫でる。
どちらかといえば、怒られてきたらしい私が君の頭を撫でてあげたいんだけど。
「ずいぶん長いこと怒られてたんだね」
「耳にタコができそうじゃった」
「そんなに?」
うんざりしたとでも言いたげに眉をひそめたまーくんに、つい笑ってしまう。
確かに傷ついたしつらかったとはいえ、まーくんだっていらついて思ってもないこと言っちゃっただけなんだし、みんなもそんなに言わなくたっていいのに。
「でも仲直りできてよかったっすね」
「うん。切原くんもごめんね、迷惑かけちゃって」
「いやいや全然っすよ」
あの後の仁王先輩の剣幕には正直びびりましたけど。
いたずらっこのように笑いながら言った切原くんの言葉に、わたしの脳内はクエスチョンマークで満たされた。
「剣幕って何?まーくん何かしたの?」
「いやーあれはもうね、芽衣子先輩への愛を感じ「おい赤也やめんしゃい」
「本当だよねー、あの仁王が跡部にあんなこと言うだなんて俺思わな「幸村もやめんしゃい!」
え、なになに何のこと?
そう誰かに問おうにも、みんなはただひとり焦ったようにやめろやめろとわめいてるまーくんを見て笑うばかりだし。
「まーくん、跡部くんに何か言ったの?」
「………言っとらん」
「柳くん、この人何言ったの?」
「やめて!」
わたしの耳に手を当てたまーくんは、聞かせまいと必死な様子。
そのせいで彼がなにを言ったのかはわからなかったけど、きっと、すごくあたたかいものだったんだろうと心のどこかで思った。