どうしよう、本当にどうしよう。
丸井たちが去った保健室で、ひとり頭をめぐらせる。
「…やなぎくん、」
柳くんが、ここまで運んでくれた。
仁王が口にしたその言葉が事実なら…っていうか、流石のあいつもこんな時に嘘は吐かないだろうし、実際あの時一番わたしの近くにいたのは柳くんだから、別に、普通に信じてはいるんだけど。
ただ、
「恥ずかしすぎる…」
あたしが柳くんのことを好きだって知ってるのはあいつらだけとはいえ、色んな人に見られたわけで。
加えてあれじゃん、運ばれたってことは、うわ、こいつ重っ!とか思われたのかもしれないわけでさ。
「…………」
けどそれ以上に、迷惑をかけてしまったっていうことが、あたしの心に引っ掛かる。
自分自身としては無理したつもりとかなかったけど、無理はするなって言われた直後に倒れたりして、呆れられてるんじゃないか。
…あ、だめだ、何か悲しくなってきた。涙出そう。
「はあぁぁあぁぁあ…」
ベッドの上で体育座りをし、シーツ越しの膝に顔をうずめる。
もう、まじで、どうしたらいいの。
嫌われたくない、呆れられたくない。
地道ではあったけど丸井たちにも協力してもらって、せっかくここまで距離を縮められたのに。
なのに、なんでこんなことになっちゃうの。
「水島?」
ネガティブな思考に拍車がかかったその時、ガラッという扉の音に続いて、あたしを呼ぶ声がした。
…え、ちょ、待って。
「目が覚めたと丸井たちから聞いてな」
「 え、あ、…え、っと」
「気分はどうだ?」
突然現れた柳くんに、言わなきゃいけないことも忘れ困惑した。
だってあたし、柳くんにすごい迷惑かけちゃった、のに。
「…まだ気分は悪いのか?」
顔色は良くなっているんだが。
そう言って眉尻を下げる柳くんの表情に、ようやく言葉を発さないといけないと気付かされた。
こんな顔、今まで一度だって見たことないもん。きっと、それだけ心配してくれたってことなんだろうから。
「あのっ、いや、…大丈 夫」
「そうか、良かった」
「う ん、ありがとう」
運んでくれたって、仁王から聞いた。
柳くんの顔から視線を逸らし手元を眺めながら言えば、「ああ」という声が頭上から聞こえた。…改めて、最悪だ。
「迷惑かけてごめんね、重かったよね」
「いや、軽すぎだ。そうだな…大体よんじゅ、」
「だめだめ言わないでッ!!」
急いで柳くんの口を自身の手で覆えば、彼はとても楽しそうに切れ長の目を細めた。
…あれ。
とっさに口をふさいじゃったけど、持ち上げた時の感覚でおおよその体重は、柳くんはきっとわかったわけで。
ここにはあたしたちしかいないんだからこんなことをする必要なんて、きっとなかったわけで。
もし仮に予想の体重を口にされたところで、あたしは否定をすればよかったわけで。
だとしても、わたしはどうしてこんなに焦っているんだろう…と思考を巡らせていると、苦しくなったのか、柳くんがやんわりとあたしの手を掴んだ。
「それだけ元気なら大丈夫そうだな」
「は…?」
「無理をするからこうなるんだ、と言いたいところだが…」
そう言って、ふわりと笑った柳くんは。
「頑張ってくれて、ありがとう」
手を掴んだまま、頭をやわやわと撫でるものだから。
あたしはまた、泣きそうになってしまった。