「………」
「………」
つまらない、あぁつまらない。
これでも読んでて、と本を渡されてからもう20分近く経ったっていうのに、ページはまったく進んでいない。
それもこれもみんな臨也のせいだ、とこころの中で悪態をついてみても、彼はたまにしかかけない眼鏡姿でパソコンに向かっている。
「…はあ、」
「何優奈。どうしたの?」
「え、」
無意識についた溜め息だったから、反応されるなんて思いもしなくて驚いた。
相変わらず眼鏡をかけたままの臨也は白いマグカップを手にして、その赤い目でわたしを見つめる。
「仕事は?」
「区切りがいいから休憩」
「ふうん」
「で、何で溜め息ついてたの?」
「べっつにー」
無駄にふかふかしてる椅子から立ち上がって、ソファーにゆっくり近付いてくる。
その表情はいつもと同じ嫌なにやにや顔で、少しだけ眉間に皺が寄った。
「何」
「さみしかった?」
「はあ?」
「俺に構ってほしかったんでしょ」
そう、その通り。
けど正直に言うなんて悔しいし、と意味もなくソファーの革を指先で撫でれば、横に座った臨也はわたしの髪を触りながら笑う。
「今日こそ言ってくれるかと思ったのに」
「何を?」
「構ってって」
「わたしがそんなこと言うわけないじゃん」
見透かしたような目がむかつく。
けどわたしのそんな考えまでも見透かしたこいつは、髪から手を離して頬をつつく。
「…うざい」
「まあまあそんなこと言わずにさ」
「そろそろ仕事再開しなよ」
「仕事なんてもうとっくに終わってるけど?」
「はあ?」
わけがわからないという気持ちと呆れで、つい間の抜けた声が出た。
わたしの手から1ページも進んでいない本を奪った臨也は、本当におかしそうに笑う。
「俺だって大変だったんだよ?ありもしない仕事をしてるふりして、優奈がいつ言ってくれるのか待ってたんだから」
「そんなの臨也が勝手にやったことじゃん」
「そうだよ。けど優奈のせいでそうする羽目になった」
にたにた顔で言った臨也のうざさに思わず足が出そうになったけど、どうせ避けられるのは目に見えてるからやめておく。
とりあえず今わかったことは、こいつは忙しいとありもしない仕事に勤しむふりをして、わたしを放っておいたってことだ。
「わたしに言わせないで、自分から絡んでくればよかったじゃん」
「そんなのつまらないし」
「おかげでわたし暇だったんだけど」
「さみしかったとは言わないんだね」
誰がそんなこと言ってやるもんか、という思いを込めて赤い目を見れば、構ってあげる、と臨也が笑った。