「…はああー…」
新宿の某マンション。
独り言のように呟けば、かたかたとパソコンに向かう家主がためいきをついた。
「…あのさ。用がないなら帰ってくれない?俺だって暇じゃないんだけど」
「えー」
「どうせ彼氏とうまく行ってないんでしょ。優奈がいきなり来て、何も言わずに居座るときはいつもそうだ」
「すいません」
「謝るくらいならやめてくれる?」
呆れたように数分前のわたしを恨めしげに語りだす。
つらくてつらくて来てしまったけど、やっぱり迷惑だったらしい。
「…ごめん、わたし帰、」
「言っとくけど、優奈が来るのが迷惑なわけじゃないから」
「…え、」
「何も話さないくせに、近くでうじうじされるのが迷惑なだけ」
「………」
「…さっさと別れればいいのに」
カップに入ったコーヒーを飲んで、臨也はまたためいきをついた。
わたしだって、出来ることならそうしてる。
けどそんなことを告げる勇気のないわたしは、臨也に迷惑をかけてしまっているんだ。
「何で優奈はそうなわけ?」
「…何が」
「何か言うわけでもないくせに、俺のところに来たがる」
「それは、」
別に相談したいとか、何かしてほしいわけじゃない。
ただ誰かに一緒にいてほしくて、それが臨也だったからここに来てしまったというだけなのに。
「そんな男のことで悩むなら、さっさと別れて俺にすればいいじゃん」
「………は?」
「さっさと別れなよ。で、俺と付き合おう」
「…え、ちょ、臨也わたしのこと好きなの?」
「俺は人間ならみんな好きだよ。あ、シズちゃん以外ね」
「いや、そういう意味じゃなくて」
恋愛的な、意味なんだけど。
予想もしてなかったことをいきなり言われて、久々に、胸がときめいてしまう。
だめだめ。わたしにはあの人がいるんだから、臨也にときめいてたりしちゃだめ。
だめ、なのに。
「別に、優奈に対して恋愛感情はないよ」
「だ、だよねー…」
「でも何かむかつくんだよね。優奈が俺以外の男のことで落ち込んだり、うじうじしてるの」
一瞬落ち着いたのに、また心臓がどくどくと鳴り始めた。
パソコンに向かったままわたしのほうを見ないで言う臨也は、顔色ひとつ変えずに言う。
「だからさ、俺にしなよ」
「え、…あ、えっと」
「文句あるの?」
文句っていうか、なんていうか。
めまぐるしく色々な情報が入ってきたせいで、わたしの頭の中がぐちゃぐちゃになる。
「あの、臨也、」
「何?」
「他の男のことでむかつくって、」
それって、やきもちじゃないの?
コーヒーを噴き出した臨也が、真っ赤な顔で否定するまであと3秒。