12


 ハリーが痛みに膝を突き、立ってるのは私だけになった。黒いマントが嗤うように震え、スルスルと近付いてくる。


「ヴォルディー、まだ時じゃない。ハリーを襲っちゃいけないよ」


 私が何もしないと知ってるヴォルディーは私には目もくれず仇を襲おうとした――けど、フィレンツェが助けに来ることだし私が何もしないってのはちょっとアレかなーと言う事でハリーを後ろに庇った。


「鈴緒……?」

「ヴォルディー、今のあんたじゃハリーは倒せない」


 てか、ここでヴォルディーが負けたら原作が変わるな。ロックハートあたりなら良いように持ち上げて良い気にさせてとり憑きそうだ。賢者の石がある限りアタックし続けそうだしね。粘着質だもん、ヴォルディー。

 と、蹄の音が高らかに響いた。私の背中の方からやって来て、頭上を飛び越えヴォルディーと私の間に躍り出たそいつは、原作通りならフィレンツェのはず。半人半馬だし人間と同じに考えちゃいけないとは言え、人の頭を乗り越えていくとは無礼な奴。


「ケガはないかい?」


 去っていくヴォルディーに手を振ってると、フィレンツェが私たちを振り返った。そしてハリーに声をかける。


「ええ……、ありがとう……。あれは何だったの?」

「それは火星と彼女が知っています」


 フィレンツェの目が私を見た。言わないよ? 言うなって言われなくても分かってるってば。


「鈴緒さん」

「ノーコメント」

「ポッター家の子だね? 早くハグリッドのところに戻った方が良い。今、森は安全じゃない……特に君にはね。私に乗れるかな? その方が早いから」


 ハリーの注意を引いてフィレンツェが膝を曲げた。


「貴女は必要ないですね」


 フィレンツェに念押しするように言われた。まあ姿現しとかそんなので必要性はないけどさ、一回くらいケンタウルスの背中ってものに乗ってみたいよねー。フィレンツェの目が拒否してるけど。


「ちぇ」


 ちょっとグレてやる、と地面を蹴った。ハリーがうんせっとフィレンツェの背中に乗ろうとしてる。良いなー羨ましいなー、私も乗りたいなー。ああでも一度に二人は流石にキツいか。


「フィレンツェ!」


 そんな所にえーっと、どっちがロナンでどっちがベインだか知らないけど、ロナンとベインが現れた。よっぽど全力疾走したんだろーな、汗だくでわき腹が目に見えて波打ってる。


「なんという事を……人間を乗せるなど、恥ずかしくないのですか? 君はただのロバなのか?」


 たしか怒鳴ったのがベインだから、もう片方がロナンか。


「この子が誰だか分かっているのですか? ポッター家の子です。一刻も早くこの森を離れる方が良い」


 そう言うがねフィレンツェ君、危険だなんだと言いながらも君はヴォルディーを追い払ったよね? なら君がいればとりあえずの安全は守られるということで、ハリーを背中に乗せてまで急ぐ必要はない。それに一度追い払われたヴォルディーが戻ってくるかを考えると、戻ってこないに一票入れるよ。力の補充のためにユニコーンを襲ってたくらいだから、またこっちに襲いかかれるほどの元気があるとは思えない。それにここでハリーを殺してしまって賢者の石の守りが強化されてみろ、石を手に入れるのは難しくなる。


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